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第13話 4枚の写真
その時以来、二度目の松崎宅訪問だ。
やっぱり無駄にオシャレな空間だよな…。ゴリラのくせに。
点けたテレビはそのままに、広いリビングをキョロキョロと見回す。
お行儀が悪い、礼儀に欠ける。そんな事、この上司の前では無問題。
こちらの方がよっぽど不躾なことをされたのだ。完全セクハラ。社内の人間に相談すれば、松崎の立場だって………
そこまで考えて裕翔ははた、と首を傾げる。
……なんだろう。誰もセクハラを受けた俺に対して、同情なんてしてくれない気がする。
それどころか、櫻井相手じゃ仕方ない、男だと思って安心して可愛がってみろ、アイツの思う壺だ、ハニートラップだ等と、寧ろ此方が非難を受けそうな気さえする。
新田の所為だろうか。皆が皆、自分のことを『男を誘惑する男』として見ているような気になってきた。
───いや! 今日だって、無理やり連れ込まれたようなものだ。
そっちが勝手な行動を取るなら、こっちだって好き勝手やってやる。
……あ!なんだあれ? 写真立てと金メダルが並んでる‼
♢
キョロキョロと部屋を見回す姿は、やたらと楽しそうだった。
かと思えば思案顔になり、唐突に首を傾げる。
むーんと口を尖らせた次の瞬間には首をプルプルと横に振り、突然 拳を頭上に掲げた。
目をキラキラ輝かせ、コレクションケースへと足取り軽く近づいて行く。
一部始終を眺めていた松崎は、そこでどうにも堪えきれなくなって、声を出さずにコッソリ笑った。
♢
コレクションケースの中には金メダルと賞状、写真立てが幾つか飾ってあった。
銀や銅のメダルは無いが、……金じゃなければ飾る意味がないのか、それとも金しか獲ってこなかったのか。
一番左の写真は、競泳水着の水泳選手がメダルを掲げたものだった。
矢鱈とガタイ良く見えるが、顔に未だ幼さが残る。
隣の、賞状を持った制服 の高校生の写真と比べると、中学生ぐらいか。
短髪の似合うその顔を見れば、それがどちらも松崎の写真だと言うことはすぐに分かった。
金メダルは水泳の地区大会、県大会で優勝した時の物らしく、あぁ、だからあの人 逆三(角形)体型でムキムキなんだ…、と思い当たった。
ボディビルダーやジム系マッチョ、打撃を吸収する為の筋肉を持つプロレスラー、ラグビーやアメフトの体当たり系スポーツの選手ともまた違う実践的な筋肉の付き方…と言うか。
細身で華奢と言われている自分から見たら、少し……ほんの少しだけ、羨ましいような、格好良く見えるような………。
きっと、気の所為だと思うのだけど。だってゴリラだし。
高校生の松崎の隣は、長髪の男だった。
長髪と言えど、ロン毛という意味ではない。今の自分よりも少し長い、大学生なら当たり前にそこいら中に居る長さ。
松崎がゴリラならその男はオオカミのようで、ちょっとカッコイイな…と裕翔は思った。
そして最後の一枚、一番右の写真立てに視線を流して………
「!………………は…!?」
裕翔は突然大声を上げた。
「どーした〜?」
キッチンから松崎が間延びした声を掛ける。
「えっ、…いや、だって……っ」
裕翔は衝撃でこんがらがった頭をクシャクシャと掻き混ぜる。
「だって、松崎さん、これ……っ!
アンタ、妻子持ちだったんですか──!?」
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