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第22話 個人的な理由

「でも……、垣内はマッチョだけど、俺はどっちかって言うと細い方じゃないですか」 「どっちかってーか、…つか、華奢だよなぁ。贅肉とか無ぇだろ、お前」 腰をキュッと摘まれて、驚いた裕翔は条件反射、松崎の腕をパシリとはたく。 「松崎さんっ、セクハラ!」 「んだよ、男触ってもセクハラって言われる時代かよ…。俺なんか、女の方から筋肉触らせろって言われんぞ。あれもセクハラか?」 「本人が嫌がってないならセクハラじゃないんじゃないですか」 未だ二十代のくせにヤケにオジサン臭いことを言う松崎に、裕翔は心情を隠そうともせずに堂々たる白い目を向けた。 「そんな事より、体育会系の人、他に何人かいたじゃないですか。俺より二課に向いてそうな人。逆に俺、未だに一課の佐々木課長から、一課(うち)においでよ、って口説かれますよ。うちに欲しかったのになぁ、松崎の奴がなぁ、ってボヤかれてます」 「あの人まだそんな事言ってんのか!」 佐々木さんはタラシだからな、誘われてもついてくなよ、と強く言われる。 行きます、と新入社員が手を挙げた所で、決まった人事は今更覆せないだろう。 何言ってるんだこの人は…と呆れもするが。 引き留めてもらえるのは、素直に気分良い。 「ほんと、松崎さんって俺のこと好きですよね〜」 調子に乗って腕に抱き着くと、 「だ〜から、俺が選んで採ったんだって言ってんだろが」 今度は松崎が珍しく顔を赤くして、ぶっきらぼうに答えた。 「研修帰ってから、人事会議が行われんだが……。実はそこで、揉めに揉めた」 「大変だったんですか?」 「営業二課(うち)と一課、システム二課で三つ巴だ」 「…三つ巴……」 相槌を打ちながら、抱き着いたついでとばかりに盛り上がった上腕の硬さを楽しむ。 首太いし、肩の筋肉も厚い。ココ、僧帽筋って言うんだっけ。 何だコレ、なんでモコってしてんだ! えいっ! ツンッ。 「櫻井、それセクハラな?」 「やられてる側が嫌がってないからセクハラじゃありません」 「ったく。ああ言えばこう言う」 「それより、三つ巴ってなんですか?」 松崎は小さく笑みを零すと、裕翔の手を取って、両手首を纏めて押さえつけた。 「お前が欲しいって手を挙げた部署が幾つかあったんだよ」 「ああ、パッと見 人当たりの良い美形だから、まぁ欲しがる人は多いんですよね」 「…エライ自信家だな、お前…」 「その後、なんか違った、って振られます」 「あー……、なぁ?」 コイツも綺麗過ぎる所為で、勝手なイメージを押し付けられてきたんだろうな…と、労るように頭をポンポン。 押さえつけられていた手首が自由になった。 なんとも言えない表情の松崎を見上げて、裕翔は少し可笑しそうに笑う。 「で、なんで松崎さんは体育会系マッチョじゃなくて、文化系で華奢な俺を選んだんですか?」 「だって、むさ苦しいだろ、営業二課」 「はい?」 「どうせ面倒見るなら、綺麗なヤツの方がモチベーション上がるだろーが」 「……………………」 「………無言やめろ」 だって……… まさか、そんな個人的な気持ちの問題が理由だなんて、思わないだろ?!

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