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第27話 衝撃
松崎がバスタオルで頭を拭きながらリビングのドアを開くと、
───とすん
と、身体に何らかの衝撃を受けた。
だが、本当に衝撃だったのは、その存在の正体で………
「松崎さんっ、おそい〜〜っ」
胸に飛び込んできたのは当然、ひとりしか居ないであろうその人物な訳で。
「何時間入ってるんですかっ、もぉっ」
プリプリしながら綺麗な顔を擦り付けてくる部下に、松崎は訳も分からず「ああ…、悪かったな…」と謝る他に選択肢が無い。
元々風呂は長い方ではない。
今日はちょっと事情が……息子さんの面倒を見てやらなければならなかった為、普段よりは時間を掛けてしまったが…。
決して何時間、という単位では無い。
長くて四〜五十分程度だろう。
「ん〜〜、じゃあねえ……」
とても男のものとは思えない柔らかそうな朱色の唇に指先をあて、何事かを考える仕草。
「いや、お前…」
「ここ座ったら、許してあげるっ」
様子がおかしな事に気付かない方が無理な変わりように、一旦落ち着かせて理由を訊ねようとした松崎だったが。
伸ばした手を掴まれて、ソファーに誘 われた。
仕方ない。取り敢えず言うことを聞いておくか、と腰を下ろせば、当たり前のように膝に乗り上げ首に腕を巻き付けてくる。
さっき誘った時は、加齢臭が移るなどと言って断ったくせに。
風呂上がりの首筋をクンクン嗅いで、「合格です」なんて言っているところを見ると、本当に加齢臭の心配をされていたのだろうか。
そりゃ流石に失礼だろ。
「おま…、!?」
文句を言おうと開いた口に、チュッ…と可愛い音をさせ、朱い唇が重なった。
…………やわらか………、! じゃなくてだ!
何だこれは!?
明らかにおかしい!!
「えへへ。チューしちゃったっ」
ブワッ!かわい………、じゃなくて!
なんでコイツ、突然 陽気にエロくなってんだ…!?
…………ハッ! まさか……………
一つの答えに思い当たった松崎は、再び近付いてくる顔を押し離しながら裕翔に怪訝な目を向ける。
見た目だけなら普段と何ら変わらない顔色、目の焦点もしっかりしているが……。
「お前、もしかして酔ってる?」
「酔ってないですよー。俺、酔うとすぐ寝ちゃうんで、起きてるってことは、酔ってないってことなんです」
お酒呑んだのに酔ってないの、凄いでしょ!とドヤりつつの満面の笑み。
………やっぱりか……。
コイツ、俺が見てない間に、酒飲んでやがった。
呂律が回っていないわけではないが、言っていることが些かおかしい。自分では酔っていないつもりらしいが、顔に出ていないだけで、その様は十二分に酔っ払いのそれだ。
自分が何処まで瓶の中身を減らしていたか確認していたわけではないから、どのくらい飲まれたかは定かではない。
呑みすぎていなければいいが。
「お前、酒弱ぇんだよな?」
「はいっ。グラスワイン1杯で寝落ちますっ」
「あー…、どんぐれぇ呑んだ?」
「えっとぉ…、小さじ一杯くらい」
「5cc程度か…」
「をー、カルピスソーダと割りました」
カルピスソーダ、…いや、うっっすいカルピスサワーの入ったグラスの残りは半分ほど。
混ぜて呑んだとすれば、小さじ1/2、2.5cc程度でこれ、か………。
黙り込んだ松崎の様子に、裕翔が不安げな表情を見せる。
「勝手に呑んだから、………怒った…?」
「いや、怒っちゃいねぇけど」
瞳に涙を浮かばせてウルウルと松崎を見つめ上げる裕翔。
松崎は慌ててその大きくて硬い掌で、柔らかな髪をポンポンと撫でる。
裕翔は少し安心したように、潤む瞳でふわりと笑った。
「あのね、俺、淋しかったから……。お酒って、淋しさを紛らわしてくれるんでしょう?
松崎さん全然帰ってこないから……、淋しくて、呑んじゃった。………ごめんなさい」
〜〜〜〜〜〜っっ、コイツ! クッッソ可愛いんだけど!!?
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