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第28話 酔っ払いの癖(へき)

思わず抱き締めそうになる腕を必死に引き留めて、松崎はもう一度裕翔の頭を撫でた。 「取り敢えず、怒ってねぇから膝から下りろ、な?」 きっと謝罪の為に、望まれたように膝に乗ったのだろう。酔っ払っているからこその、ついでのキス。 コイツ、呑んだらキス魔になんだな……。 他の奴にもしたらヤベェよなぁ。男でも、…いや、男の方が狙ってる奴多いだろうし。 そんな事を思って、「俺が居ないトコで呑むなよ」と忠告すれば、素直に「はい」と答えた裕翔は、膝から下りるどころかまた首へと腕を巻き付けてきて…… 「……オイ」 「んっ……」 また、キスを仕掛けられた。 「オイ、キス魔」 顔を挟んで放させる。 「誰がキス魔だ、失礼な!」 「お前だお前」 「キス魔ってのはぁ、誰彼構わずチューしちゃう人でしょう? 俺は、松崎さんにしかしないもん」 プリプリと怒りながら、裕翔は松崎にとんだ爆弾を投げつける。 それは言外に、告白をされているような言葉なのだが。 「………えっと。……お前、俺のこと好きなの?」 「言わなぁい」 「いや……、言わないって…」 「松崎さんこそ、俺のこと好きなんじゃないの?」 「あーー、それなぁ……」 「俺が寝てる間に、おっぱいチューチューしたもんね」 「いや、お前言い方…、っ?!」 松崎が目を瞠るその前で、裕翔がパジャマの前ボタンをひとつひとつ解いていく。 突然始まったストリップに、思わず息を呑んで見入ってしまう。 拙い誘惑の仕方だが、それでも松崎にとって、それは何よりの劇薬で……… 「一回したら、もう興味なくなっちゃった?」 ボタンを外そうと布を動かす度、桃色の小さな胸の飾りが見え隠れする。 一番下のボタンだけ残して肩口をずらすと、ハラリとパジャマが落ちて、男にしては白くて頼りない肩が露わになる。 震える長い睫毛の下から覗く瞳は、真っ直ぐに松崎の目を捉える。 朱い唇が誘うように潤んで妖しく弧を描く。 裕翔は膝立ちをすると、酒が入った所為だけではない、バクバクと煩い胸を松崎の口元へと近付けた。 「健吾さん……。また、食べてもいいですよ」 「っ!───いや、ちょっと待て!」 「ひぁっ…」 ハッと意識を戻して裕翔を押し止めた松崎だったが、思いがけずその頂に触れ甘い声を上げさせてしまった。 「………(ワリ)ぃ」 「うぅ……、別に、手で触るんでも…いいですけど……」 自分からやらしく誘っておいて、突然恥ずかしくなったらしい。 赤い顔で俯かれては、本当に自分がイケナイコトをしている気にさせられる。 「じゃなくて、酔ってるお前とはヤんねぇぞ、俺は」 「酔ってないのにぃ」 「酔ってるっつーの!」 普段よりも親しい者に向ける口調に、普段ならば絶対にしないような甘え方に。 行動全てが酔っ払っていなければやらないような事なのに、相変わらず本人は素面でないことを認めるつもりはないらしい。 「お前さ、寝て起きると忘れてんだよ。酔ってる間にあった事」 「忘れないもん」 「実際、忘れてただろーが」 「………どんなこと…?」 膝を折ってペタンと座ると裕翔は、松崎の顔を見上げる。 珍しく不貞腐れたような表情は、年相応に見えて、ちょっと可愛いなんて裕翔は思ってしまう。 「歓迎会の夜、……あれ、お前から誘ったんだからな。起きたらキレーサッパリ忘れて、人のこと変態なんつって罵ってくれやがって」 「え………、えぇー…?」 「えー、じゃねえの。スーツ皺になるから脱がせて着替えさせてやろうとしたら、お前が起きてきて……」       ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ 「あ〜…、まつざきさんだぁ」 「お、悪ぃ。起こしたか。…ってお前、起きたんなら自分で着替えろよ」 「んっ……、ぁん、なんで脱がしてるんですかぁ。エッチ〜。ふふっ」 「お前……、まだ酔ってんな。………わかった。着替えさせてやっから…」 「あっ、やぁん」 「ムダに色気振り撒くな」 「まつざきさぁん、おっぱいかゆい〜。掻いてぇ」 「なんでンなとこ痒ぃんだよ。ほら」 「あっ、あんっ」 「オイ、変な声出すな(下半身が反応するだろーがっ)」 「だって……そこ…きもちいぃんだもん……。まつざきさん、舐めてぇ」 「……………は…!?」 「ペロペロしてぇ、チュッチュしてぇ、ガブガブして?」 「いや、……お前、自分が何言ってっか…」 「色白の肌ぁ、好きなんでしょう? ここもぉ、ピンクですよぉ? ねっ、かわいい?」 「あ、…ああ、まあ………ゴクリ」 「エロくってぇ、思わず吸い付いちゃいたくならない? 俺のぉ……おっぱい♡」       ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ 「…………むー…、俺、そんなエッチな誘惑なんて、はしたないマネしないもん」 なら、自分で脱いで、口元に乳首を持ってくる行いはなんなのだ、はしたなくないのかと問い質してやりたいが、話が進まなくなりそうなので松崎は言いたい気持ちをグッと堪える。 「つい誘われた俺もどうかと思うけどよ。自分だけイッたら即行寝やがって…」 「うっ、そ…れは……、なんか、ごめんなさい……。やってないと思うけど…」 「いや、完全にやってっから。仕方ねぇから寝てるお前の顔にブッ掛けてやった」 「っ───!!!」 「つーのは嘘」 「ホッ…」 「胸と腹に掛けてやったっけな」 「っ!!? ヘンタイッ!!」 「おっさんに乳首吸われて、自分でちんこ扱いてイッちゃう奴も、大概変態だと思うけどなぁ?櫻井クン?」 「………うぅぅ……」

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