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第31話 はずかしい
テーブルを片付けることもせずに、松崎は裕翔を抱き上げて寝室に移動した。
ベッドに仰向けに横たわらせ、覆い被さる。
覚悟を見図るためじっとその目を見詰めれば、裕翔はぶわっと顔を真っ赤に染め上げ、所在無さげに視線を逸した。
「ま…つざきさん……、はずかしい……」
さっきまでノリノリで人を煽っていたくせに。
「もう、健吾さん、って呼ばねぇの?」
「…うぅ……、健吾さん、…ベッド……、や……」
目尻に涙まで浮かべて、イヤイヤと首を振る。
そんな可愛いすぎる仕草、止めさせるどころか逆に暴走させることになるのではないかと思わないでもないが。
「………んじゃ、やめるか」
松崎は裕翔の頭を軽く一撫ですると、隣にゴロリと転がった。
「一緒に寝るくらいならいいだろ。このベッド以外で寝ると、狭くて体痛くなんだよ」
身体の大きい松崎のベッドは、それに見合ったロングのクイーンサイズ。
引っ越しの際の新調で、ロングのダブルにするつもりだったのに、彼女が泊まりに来たときに窮屈でしょうと、姉に無理矢理買わされた値の張る ベッドだ。
端と端で背を向けあって眠れば、男同士でも互いの体温を感じることも無く一夜を越せるだろう。
おやすみと声を掛けて、足元の掛け布団を引き上げる。………と、
布団を引く手が押さえつけられた。
「………ヤダぁ」
先ほどとは反対に、裕翔が松崎の体の上に乗り上げる。
下着越しに硬く形を浮き上がらせていた裕翔の昂りが、鍛えられた腹筋の隙間 に食い込む。
「…………あのなぁ、裕翔クン? おっさんキッツぃの。わかってやってる?」
涙を湛えたままの瞳が、不思議そうに瞬いた。瞼に押し出された雫が頬をはらりと流れ落ちる。
「いや、君の色気にあてられて、ちんこ痛 ってぇつってんの」
だから大人しく寝てください、と松崎が懇願しているに拘わらず、裕翔はその逞しい体の上から退こうとはしない。
あーっ、もう襲うぞ!!
本人には伝えられない言葉を頭の中でシャウトして、吐き出したことでなんとか消化しようとするも、裕翔は変わらずキョトンとした目で松崎の顔を見つめている。
そして、やがて目を細め ふわりと笑うと、松崎の口にふっくらとした柔らかい唇をそっと押し当てた。
「っ!……………お前なぁ……」
「恥ずかしかっただけだからっ」
「…………あ?」
「だーかーらぁ、上に乗られて見下ろされてね、視界が健吾さんでいっぱいになって、……俺も健吾さんの目にはいっぱいに映ってるのかなって思ったら……、見られてるの、恥ずかしくなって……」
そう言や、恥ずかしいって言ってたっけな…。
顔を真っ赤にしてイヤイヤしていた裕翔は、何も本気で嫌がっていたわけではなく…………
「恥ずかしくて泣いてたのかよ……」
「……はい………」
んじゃ、なんだ?
「嫌だって言われてもやめなくていいの?」
「………はい」
「泣いてんのも照れてるだけで、嫌がってるわけじゃねぇの?」
「はい……」
「こういう事する相手、俺で良いんだな?」
最終確認。
松崎が改めてそう訊ねれば、裕翔は「はい」ではなく、
「……健吾さんが……いいです………」
震える声で、しかしはっきりとした口調で、そう答えた。
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