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第34話 オトナのキス

「ンん……ッ」 裕翔の声がくぐもったのは、声を堪えたからではなく、松崎に唇を塞がれたからだった。 裕翔が何度も仕掛けたキスとは根本的に違う、噛み付くようなキス。それは与えるものではなく奪うもので…… 「ン……、…んッ、……は、む……んぅ…」 唇も舌も、呼吸すらも貪る松崎のキスに、裕翔は生気までも食い尽くされたかのようにクタリと倒れ込む。 それでも松崎は唇を離そうとはせずに、差し込んだ舌で口内を隅々までなぞっては、裕翔の気持ちのいいところを暴こうとする。 身体がビクンと撓れば感じる上顎ばかりを集中して舐めて、息をする隙すら与えない。 苦しくて松崎の胸を叩けば、ようやく唇が離れ…… 「は………、ん、はぁ……」 けれどそれも一瞬のこと。息継ぎの為に大きく開いた口からすぐに舌が差し込まれ、思わず逃げた舌先をチロチロと擽られた。 「ふぁっ、……ん、…ふ、ぅン…」 ピチャピチャと響く水音が恥ずかしい。 熱い息に、熱い顔、身体も熱くて、もう隠れてしまいたいほど恥ずかしい。 いつの間にか絡めとられた舌は松崎の口内に誘い込まれ、今や自ら動かして気持ち良くなってるだなんて………、悪い夢じゃないだろうかと裕翔は蕩けた頭で考える。 松崎の喉仏が動いて、どちらともしれない唾液を飲み込む。 コクンと小さく聞こえた嚥下音。 それだけの事がやたらにやらしく思えて、裕翔の熱は更に上昇していく。 やがて、唇が(ほど)かれ……… 「これが、オトナのキスな」 やっとのことで、呼吸が自由になった。 ぷっくりとした下唇は食まれすぎて、腫れぼったく赤く色付いている。 荒い呼吸を繰り返す裕翔に対し、松崎は余裕な顔で、「気持ちよかったか?」などと誂うように訊く。 当然答える体力も気力も残されていない裕翔は、松崎の上にうつ伏せのまま。 「まあそういうわけで、ここからが本番だ」 「!? …う……そ………っ!」 「分かったら、まだヘバんなよ?」 「うぅ……、筋肉バカッ! 体力おばけ〜〜っっ」 密やかな笑い声と共に、耳穴に入り込んだ生温く湿ったもの。 それが松崎の舌だと気付いた時には、裕翔はまた、あらぬ声をあげ体を捩らせていた。 淫靡な水音に頭が支配されて、快感に飲み込まれていく。 体力も、気力も、残されていなかった筈なのに……… 精力だけはしっかりと全開で残っていたらしい。 裕翔の熱は高らかに天を向き、松崎に至っては、一体何処まで膨れ上がるのか……。 パジャマのズボンを脱ぎ捨てたその下、トランクスの上からもその凶暴さが窺える存在感を示している。

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