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第39話 ばか

俯いて肩を震わせる裕翔に、松崎は戸惑い声を掛け続ける。 暫く裕翔はそれを意図的に無視していたけれど……… 唐突にガッ!と顔を上げると、鋭い目つきで松崎を睨み上げた。 「えっ、いや、なんか怒ってる?お前」 その噛み締められた口元でも一目瞭然だろうに、寝起き且つ動揺した状態の松崎は、わざわざそんな事を訊ねる。 それが更に怒りを煽るものになると気付いていない。 「…………無かった事にするくらいなら、端から手なんて出さないでくれませんかねぇ……」 「はっ…!? え⁉ 覚えてんのお前!?」 「忘れて欲しいなら、忘れたフリしてあげますけど、俺、ずっと許しませんから」 「いやっ、待て! 話…」 「知らない!聞かない!あーあー!!」 耳を塞いで大声で松崎の言葉を遮りながら、裕翔は布団に潜り込んだ。 あんな事までしておいて…… なんで無かったことになんてすんだよっ! 健吾さんの……ばか……… 目尻から勝手に涙が溢れ落ちる。 もう口利いてやんない。………仕事以外で。 「裕翔ク〜ン、おーい、聞いてくんねぇかなあ」 「聞かない!」 ………あっ、話しちゃった…! 大体さ、前の時だって、健吾さんが俺のおっぱいにエッチなことしたって言ったから…… それからだもん。自分でも…弄るようになっちゃったの。 全部、健吾さんの所為だ! 昨日の、あんなスゴイの……… 今度はちゃんと覚えてる。 だけどもう、健吾さんは俺に同じこと、する気がなくなっちゃった。 きっと今度は、胸だけじゃ……ひとりでするだけじゃ、物足りなくなっちゃうのに。 自分ひとりじゃあんなこと、出来ないのに。 そしたら俺……、どうしたらいいんだろう……? 誰か他の人にしてもらえばいいの? でも俺……たぶん、健吾さん以外はイヤなんだ。あんな風にされるのも、するのも、ぜんぶ、他の人とじゃイヤだ。 だけど健吾さんは反対に、昨日ので、俺じゃダメだって思ったんだ。だから俺がその事を覚えてないなら都合良いって、何も無かったフリをした。 俺のこと、好きなんじゃって……勘違いして手を出したけど、それは間違いだった、って気付いたんだ。 俺だけが、本当に好きだったんだ……… ……………ん? ………んん!? 「………俺、健吾さんのこと───好きだったの…?」 えっ………!? ちょっ……、待って…! 「いつから……!?」 「は……っ!? 待て、お前───」 掛け布団が勢い良く取り払われ、急に世界が明るくなる。 裕翔は真っ赤な顔を両手で押さえて、蹲っていた。 「裕翔、お前……、俺のこと好きなの?」 「っ!……………その…よう…です………」 「それ、今気付いたの?」 「………はい……」 「………そっか……そっかぁ……。……うん、わかったわ。そういう事な」 何故か松崎もその場に崩れ落ちた形で、何が分かったのか一人頷いている。

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