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第41話 萌えるのも楽じゃない

 一目惚れだったのだと松崎は言った。  緊張で強張っていた表情が、フッと緩んだ。その笑顔に、胸を撃ち抜かれたのだと。  布団から顔だけ出した裕翔の涙と鼻をティッシュペーパーで拭って、少し照れたように笑った。 「それ、一目惚れって言わなくないですか?」  真顔の時にはときめいていなかったのだろう、と訊ねれば、そもそもとんでもない美人が居るから頭っから気になってはいたのだと答える。 「で、勝手に目がお前ばっか追っかけてたから、他にどんな奴がいるか覚えてなくて、帰ってから慌てて人事資料漁らせてもらって、もう一人は垣内に落ち着いた、と」 「垣内なんて今はどうだっていいんです!」 「どうだって、って…」  裕翔の剣幕に松崎は、美人が怒ると怖ぇな……等と頬を突付いては、更に怒りを煽る。 「俺が聞きたいのは、なんで無かったことにしようとしたのかって事です。それに、そんな初期から好きなら、さっさと好きって言えばよかったじゃないですか。俺、何度もチャンスあげましたよね?」 「貰いましたねぇ」  上から目線でビシッと訊いてやれば、苦笑で返された。 「じゃあ……なんで?」       ♢   ♢   ♢  泣いたり怒ったり、女王様のように振る舞ったかと思えば、途端弱気な表情(かお)をする。  その様が可愛すぎて──三十路間近、自分でも気色悪いと思うが──ドキドキとトキメキが止まらない。これが萌えというものか。  若い奴らが高校生のアイドルを観て、可愛い萌える等と騒いでいるのを、オイオイお前ら捕まるぞ、と呆れて眺めていたけれど…。  捕まるのは俺の方だわ。  実際、手も出しちまってるしな……。  法律的にアウトじゃなくても、世間的にアウトだわ、なんか。  弱い喉元を擽ると、裕翔はぎゅっと目を瞑り細い肩を小さく震わせた。  松崎は思わず身を乗り出して、その甘い唇にちゅっと口付ける。 「ン………、ズルい…。こんなコトして誤魔化して……」  誤魔化すつもりでキスしたわけではなかったのだが……。  可愛く唇を奪い返されれば、あっと言う間に理性が持って行かれそうになる。  布団ごとその身体を抱き締めれば、肩にコテンと頭が乗せられた。 「──────っっ」  萌えるのも楽じゃない。  これを堪え切ることができるか、堪らず襲いかかってしまうかで、男の器が知れたものだ。  コイツに相応しい男と認められるよう、堪えろ、俺…………

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