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第42話 上司の言い分
「昨夜も…話しただろ…」
耳にちゅっと口付けては、さらさらと髪を梳く。
ピクンと反応を見せた裕翔の、頬が赤く色付いた。
「お前、前の時のこと覚えてなかっただろ。いつ寝たかなんて訊かれたら、また忘れられたんだと思うだろうが。だから、素面じゃねぇお前とはヤらねぇって言ったのにようって」
「……だって、本当に寝た時の記憶がないんだもん。健吾さんに……いっぱいエッチなことされちゃった記憶はあるけど……。お口におちんぽ突っ込まれたりぃ……」
「なにお前、朝から誘ってんの? 煽ってんの?」
「ちがうー。あとで! それより話が先です」
どうやら、朝っぱらから誘惑されているらしい。
「ちなみに、寝たのは、お前が三回目にイッた後な。俺のザーメン口で受けて、尻ン中とちんこと乳首弄られながらイッたと思ったら、急に倒れっから、一瞬 落ちたかと思ってスッゲー焦った。まあ、すぐに寝息が聞こえたからホッとしたけどな」
ニヤニヤしながら教えてやれば、裕翔は顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。
照れて唇を噛み締めている様は頗る可愛くて、隠さずに見せていて欲しいものだが。
硬く結ばれた唇を指先でふにふにと弄んでいると、ふと裕翔が顔を上げた。
まだ赤い顔をしているもの、目をぱちくり。不思議そうに松崎を見つめている。
「健吾さん、手が三本になってる……」
「は……?」
「え、…だって、お尻の…中、と、……前…と、胸……、一緒に触れないでしょ…?」
「ああ、それな。乳首は足の指で摘んだからな」
「!!」
「何回か足攣りそうになってヤバかったわ。次ン時は洗濯ばさみで行くか」
「〜〜〜〜〜ばかぁっ!!」
どうやら、洗濯ばさみではお気に召さないらしい。
「で、まあ…な。やっぱり忘れてやがったか。そしたらまた、傷の癒えた頃に再チャレンジするか。酒の無いとこで。───と考えた俺は、裕翔クンには真実を告げないことにしました。
また酔ったトコ襲ったヘンタイって罵られても辛いしなぁ」
「それ……は、……切ない想いをしましたね……」
「他人事か!」
思わず強く言えば裕翔が楽しそうに噴き出すから、つい声を揃えて笑ってしまう。
「で、なんで好きだと言わなかったか…?
そんなん、俺から言ったらパワハラになりかねねぇからだろうが」
上司 から告白をすれば……
部下も上司が好きならば、それなりに上手く行くのだろうが。
もし断りたいと思っても、その先のことを考えたら………
居づらくなるかもしれない。一緒に仕事もし辛くなるし、結果、辞めざるを得なくなるかもしれない。
振ったことを根に持たれるかもしれないと考えれば、自らの意に反して、告白を受け入れることもあるかもしれない。
───そんな風に気持ちを押し付けるのが嫌だったんだ。
そう伝えれば………
裕翔はキョトンと、目を瞬かせ、
「そんなことで?」
と首を傾げた。
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