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第2話
「今の時代、こんなの当たり前じゃないですか?」
「そうだけど、気に入らないんじゃないのか?全部知ってないと」
「随分とわがままなんですね」
調査依頼の資料を眺めながらチョコレートの破片を口に入れると部下の雨宮 が声をかけてきた。
「やっぱりさ、金持ちは頭の回路が違うんだよ、ましてや……えっと……」
資料を捲り、依頼主の詳細欄に視線を移す。
そこに記されていたのは“婚約者”の文字。
なるほどね……
「葉山 さん、それ甘くないんですか?」
「は?」
「チョコレートですよ」
「別に……美味いよ」
「男のくせに甘いもの好きとか珍しい」
「ばーか、これだって最近は珍しくないんだよ。結構多いらしいぜ、甘党な男子」
「へえ……もうすぐ三十路なのに男子って」
「おい、なんか言ったか?」
「なーんにも言ってないです」
資料を乱暴にカバンにしまいながら、俺の話をまるで信じていないような返事をする雨宮は、俺には無理と吐き捨て足早に部屋を出て行った。
「……たくっ。全部聞こえてるし、くせにとか一言余計だろ」
男だからこれはおかしいとか、女だからこれじゃなきゃダメだとか、そんな考え方は古いと思う。
でも俺がそう思えるようになったのはこの仕事を始めてからだ。
昔の俺はやっぱり雨宮みたいな概念を持っていた。
そう、あの時だって……
あの日、俺があんな行動をしていなかったから何かが変わっていたのだろうか。
もしかしたら俺たちは────
遠い記憶を辿るように目を瞑ると·····天を仰いで深いため息を吐き出す。
「……んなはずないよな」
ため息と一緒に吐き出された呟きを掻き消すように、無音だった室内に響き渡る無機質な呼び出し音とブルブルと繰り返し振動する音。
その音に一気に引き戻された俺は、手を伸ばしデスクに置いてあるスマホを取ると、タップして耳元へとそれを近づけた。
「はい、葉山です……」
*
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