｢なあ？｣ ｢はい？｣ ｢雨宮ってさ、昔はこうだと思ってたのに実はこうだった……みたいなギャップにときめいたりした経験ある？｣ ｢は？何の話ですか？｣ ｢いや、ギャップ萌えってあるかってこと｣ ｢まぁ、そっけない人がふと見せる優しさとかそういうのはいいですよね｣ ｢そこは共感してもらえてよかったわ｣ ｢いったい何なんですか｣ ｢じゃあさ……苦手だった相手と久しぶりに再会して、実は話したらいい人だったってなったら、雨宮ならどんな気持ちになる？｣ ｢そうだなぁ……もっといい一面が見たくなってその人と仲良くなりたいと思うかも｣ ｢そっか……｣ 依頼主から名前を聞いた時から気付いていた。 10年以上も前の話だからきっと向こうだって忘れてるだろうし、あれから年もとって顔つきだって変わってる。 だけど、久しぶりにあのパーティーで会った時はびっくりするくらい俺は動揺していた。 あの頃の面影が宿るその整った容姿は健在で、歳を重ねたことで更にいい男になった彼····· 藤堂隼人…… 俺が……いや、同級生だった俺たちが高二だった時に俺はこの男から告白をされ、その告白を俺は断った。 隣のクラスだった隼人とはそこまで親しいわけでもなく、それこそ会話をしたことなんて数回。 金持ちの御曹司だったことや、それを利用した派手な女遊びの噂話だけでどんどんと俺の中では悪いイメージだけが先行していった。 だから、ある日屋上に呼び出され好きだと告白された時はからかってるだけど思い、その気持ちを拒絶してその日から卒業まで一切関わらないようにした。 当時は同性愛とか理解できなかったし、そもそも俺のどこにそんな魅力があったのかも不思議でならなかった。 そういえば、あいつどこが好きとか言わないでいきなり好きだって言ってきたんだよな。 それに、断った時も分かったと一言言っただけで去って行ったくらいだから、やっぱりからかって楽しんでるだけだったんだよ。 ……ずっと、俺はそう思っていた。 なのに、こうして10年以上も経って再会して…… 雨宮じゃないけど、毎週会って話をして彼をより詳しく知る度に誤解していた部分も多く、俺も隼人のことをもっと知りたいと思い始めていて、だけど今彼と関わっているのはあくまで仕事として。 だから、今夜が終われば俺はもうあのパーティーに行かなくなる、隼人にも会わなくなる。 依頼された時点で断ればよかったのかもな…… 隼人が実はそんなに悪い奴ではないと知ったのは誤算で、自分でもこんな複雑な気持ちに強いられるとは思ってなかった。 気持ちが変化することなんてないと……どこか自信があったのかもしれない。 だから、安易に引き受けてしまった……んだと思う。 とりあえずは今夜会って向こうがいつも通りに戻っていたらこのまま何も言わないでおこう。 それが一番いいし、お互い今更昔の事を蒸し返したってなんのメリットもないのだから。 それが一番いい……