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第6話

「こんばんは、若葉様。本日が契約最後の回になりますが、ご延長はされますか?」 「いや、今夜が最後でお願いします」 「さようでございますか、畏まりした」 いつも通り奥の部屋に入ると既に彼はグラスを傾けシャンパンを飲んでいた。 「こんばんは……」 「こんばんは……よかった来てくれて」 「どうして?」 「先週あんな別れ方をしてしまったからもう来てはくれないと思っていたんだよ」 「最後だし、ちゃんと最後の挨拶はしないと……」 最後と自分で言った言葉が思いの外胸にぐさりと刺さって少しだけ切なくなった。 「そうか……じゃあ、若葉くんと飲む最後のシャンパンはこれだよ────」 最後だと同じく口にした彼の隣りに座ると、ボトルを傾けグラスにそれを注ぐと俺に差し出した…… 「このシャンパンは“テタンジェ ノクターン スリーヴァー”」 「ノクターン……」 「そう……」 「あのショパンのノクターン?」 「そうだよ、あのノクターン。ノクターンは別名で“夜想曲”。俺が何故このシャンパンを最後に選んだか……分かるよな────·····航平?」 そして、真顔で彼がノクターンの話と一緒に俺の本名を口にした時、空気が変わったような気がした。 「おまえ……やっぱり気付いてたのか……」 テーブルにグラスを置くと隼人はゆっくりとソファーに身体を預け、言葉を続けた。 「悪いけど、航平の身辺調査させてもらった。だから、おまえが何故俺に近付いたかも知ってる」 「マジかよ……」 「話を戻すけど、俺が最後にこのシャンパンを選んだ理由……分かるか?」 「夜想曲の意味は……知ってる。だけど、まさかそんなはずないだろ?俺はあの時、おまえからの告白を断った。だから、とっくにおまえの気持ちは……」 「航平はあの時俺がからかってると思って間に受けなかったんだろ?」 「そうだよ、おまえのこと嫌いだったし、それになんで俺なんだよ」 「嫌いって……酷いな、まったく。俺は好きだったよ、本気で」 その好きになった理由がわからないから、いくら今更色々言われたって信じられるわけがないんだよ。 「その好きになった理由を教えろ」 「理由、それは……綺麗だと思ったから」 「……は?」 「航平のこと綺麗だなって思ったんだ」 まさかそんな理由を告げられるとは思ってなかった俺は頭の中が真っ白になった。 「おまえって、当時から色素が薄くて髪も茶色くて初めて見かけた時から綺麗な男だなって思ってた。だから、見かける度に目で追うようになって、次第に気になる存在になっていったんだよ。で、久しぶりに会った航平はやっぱり綺麗で毎週ここで会うのがすごく楽しかった。だから、会った明け方に家に帰ると航平との夜を思い返してた。 でも楽しい反面、何故おまえは俺の目の前に現れたのか次第に気になり始めた。偶然なんてそんなに簡単には転がってないと思った俺は、それからおまえが俺の身辺調査をしていることを調べ上げ、仕事なら1ヶ月ごとの契約延長はしないだろうって思ってたから、会えるのは今夜が最後になるだろうと予想したんだ。 そして最後の今夜、改めて言おうと思ってた」 そう隼人が全てを話終えると、 「俺はやっぱり航平のことが今でも好きだ……」 そう静かに気持ちを告げられた。 突然のことに固まっている俺を抱き寄せると、もう一度好きだと告げてくる。

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