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最終話

「あ、あの……そんなこと言われても……俺はおまえのこと……」 おまえのことが嫌いだと口にする前に再び口を塞がれ、すくい上げるように何度も何度もキスをされ、唇が離れていった時には肩で息するくらいに呼吸は乱れていた。 そして、 「今度こそ俺と付き合って欲しい」 ……と、同じ男から二度目の告白をされた。 でも、そんなことを言われて簡単に頷けるほど若くないし、何より隼人には…… 「婚約者……」 「え?」 「婚約者どうするんだよ」 「婚約者の件は心配しなくていいから。あいつも他に一緒になりたい男がいてどうにかして俺との婚約が破談にならないかってあら探しの為に身辺調査を依頼したらしい。だから、航平が心配することはないんだよ」 「マジかよ……」 「だから、今度はちゃんと考えて欲しい……今も俺のこと嫌いか?」 俺の調査は無意味だったと言うことか。 でも、依頼を引き受けたから隼人に再会出来たわけだから、やっぱり意味はあったのか…… 「おい、聞いてるのか航平?」 「あ、ああ……聞いてる」 「今でも俺のことが嫌いなら仕方ないけど·····」 「嫌い……じゃ……ない……多分」 「じゃあ返事は?」 この状況でそんな聞き方狡いだろ····· だから、少しだけムカついた俺は返事をする代わりに、自分からその口を塞いで悪態を吐いた。 「おまえ確信犯だろ……狡い」 すると、ふっと短く笑った隼人はテーブルに置かれてある二つのグラスにシャンパンを注ぎ入れ、俺の目の前に差し出した。 「────今夜のレッスンは何をお望み?」 「そうだな……」 カーンッと響く音に俺もつられて微笑むと、二人でゆっくりとグラスに口を付けそれを味わう。 それはなめらかなで繊細な口当たりで、辛口と甘口の間くらいの味わいだった……まるで今の俺たちみたいな、そんな味がした。 シャンパンは祝福の席で飲むことが多いという。 それにはきちんとした意味が存在する。 グラスに注いだ時のパチパチとする泡の音は“天使の拍手”という言い伝えがあり、その泡はフランスのシャンパーニュ地方では“幸せ”という意味があるらしい。 グラスの中の泡が下から上へと止まることなく流れていくのは、“幸せが下から上へと半永久的に止まることなく続いている”……と、いう意味が込められているんだとか。 「なんだか……ロマンチックだな」 「何か言ったか?」 「いや、つい最近仕込んだシャンパンの持つ意味をさ、思い出してたんだよ」 「なかなか奥深いだろ?」 「そうだな」 「だから俺はシャンパンが好きなんだけど·····もう一つ好きな理由がある」 隼人の言うもう一つの理由…… それは、 「航平のその髪の色に似てるから」 「髪?」 「あぁ。あの頃から、光に反射したおまえの髪の色……こんな色だった。だから、シャンパンを飲む度に時々あの頃を思い出してた」 「そ……そうだったんだ」 「なぁ、航平?」 「なんだよ」 「……綺麗になったな。あの頃よりもっと綺麗になった」 俺の髪にゆっくりと触れ、綺麗になったと繰り返す隼人の眼差しは真剣で、今なら信じられる気がした。 俺を好きだと言ったその想いは13年経ってやっと·····──── 「13年も経ったし、もうこっちかもしれないな」 「何が?」 「航平のこと……好きって言うよりも、多分────愛してる」 俺たちはこれから先、こんな風に確かめながら13年分の空白を埋めていくのだろう…… それは、 楽しかった夜を想い返しながら聴くノクターンのように·····──── END *最後までお読みいただきありがとうございました。 次のページから書き下ろしの後日談になります。

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