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第3話

郁人の前に朱鳥として姿を現してから何日かが過ぎた。晶が怖くなるくらい幾日も幾日も郁人は朱鳥の話ばかり。どんどん郁人の中でイメージだけが膨らんでいき、実際晶だとわかった時の反動がどういう風になってしまうのか怖くなった。 「なあ、いつになったら郁人にバラすんだ? あいつ、会った途端に朱鳥押し倒す勢いで好き好き言ってんぞ? 大丈夫?」 ドッキリか何かと思っている輝樹は時折心配してそう聞いてくる。大丈夫かどうかなんて俺にだってわからねえよ! と言いたいのをぐっと堪え「ハロウィンパーティーで俺からバラすから……」と輝樹を宥めた。 郁人は朱鳥の姿を見かけたその日からずっと、あんな子今までいなかったとか、運命だとか、友達なら早く会わせろ、とか常に朱鳥の事ばかり話していた。郁人が朱鳥に夢中なのは一目瞭然だった。ハロウィンパーティーの薄暗い照明の中で郁人に近付き口説かせる。そして会場を抜け出してホテルにでも行って関係を持ってしまえば……途中でバレたとしても、口説いてきたのは郁人だし、晶も告白しやすくなる。郁人が怒ってしまっても「イタズラだった」と言えばまた親友に戻れるはず。気不味い思いはお互いしなくて済む。そう思って晶は朱鳥になりきる事を決意した。 それなのに、郁人が朱鳥の話をする度、自分のことではないのに嬉しく思ってしまう。自分のことを好きなんじゃないかと浮かれてしまう。郁人が見ているのは晶ではなく朱鳥なのに段々それがわからなくなってくる。幸せに感じる反面、恐怖も湧き上がってくる。そんな不安定な晶を一聖だけは見抜いていた。 「もう郁人に話せよ。朱鳥になるの、やめろ……」 本来の計画なら朱鳥の姿になるのはパーティーの時だけでよかったはず。それなのに事あるごとに朱鳥になって、郁人から離れたところでうろうろするようになっていた。 「ん? いいんだよ。俺は朱鳥なんだから……郁人の大好きな朱鳥ちゃんだぞ」 そう言って笑う晶に一聖は言葉が出ない。普段冷静な晶がこんなになってるんだ。上手くいってもいかなくても、最後までやらせないと収まりつかないと諦めた。 ハロウィンパーティー当日は晶の姿で一聖と一緒に会場となるクラブに入る。主催側として諸々準備や打ち合わせもあったから客より大分早くに来ていた。輝樹に上手いことやってもらい、タイミングを見計らって朱鳥に変身した。一番朱鳥が魅力的でセクシーに見えるよう、晶の体型に合わせ衣装のサイズも手直しした。そこらの女より格上に見せなきゃ意味がない。メイクもしっかり施し、魔女の姿の朱鳥を装う。完璧なはずだった。でもパーティーが始まった途端、郁人に声を掛けられるより先に知らない男達に囲まれてしまった。薄暗く音楽も程よく煩い。隙あらば二人きりになろうと次から次へと口説かれる。酒も入り、段々とバカらしくなり自分がやっていることがよくわからなくなってくる。晶は堪らず一聖に身を隠してもらうように抱きついた。察した一聖もそれに答えるようにして朱鳥の姿を隠してやる。 「俺は何やってんだろうな……」 すっかり弱気な晶に一聖は「もう帰ろうか?」と声を掛けた。晶が酒に酔い、自分のやっていることに呆れ始めている。そのまま郁人のことも諦めればいい……そう思った矢先にゲームタイムに入ってしまった。 パーティーでは定番のゲーム。グループの一人が強い酒を飲み、誰が飲んだか周りが当てるという単純なゲーム。勿論参加などする気は無かったのに輝樹が引いたクジに朱鳥の番号が紛れていた。酒は強い方じゃない。既に軽く酔っ払ってるのにこれ以上飲んでしまったら晶は自分を保てるのか自信がなかった。 グラスを口に当てた瞬間、自分のこれが当たりの酒だとわかってしまった。もうどうにでもなれと、合図と同時に一気に飲み干す。視界の隅に心配そうな郁人と一聖の顔が見えた。

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