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第4話

足が縺れる。思った以上に目が回り、晶は正直立っているのがやっとだった。ゲームが終わり逃げるようにしてバーカウンターの方へ行く。すぐに一聖が駆けつけ、よろける晶を抱きかかえるようにして店から出た。 「もういい……大失敗じゃん、何やってんだろうね俺は── 」 タクシーの中で一聖にもたれて晶が呟く。 「夢見ちゃったんだ……郁人ももしかしたら俺のこと見てくれるかもって、朱鳥に向けるあの笑顔を俺にも同じにしてくれるんじゃないかって……俺朱鳥じゃないのに」 「お前酔いすぎ。あんま喋んな……」 一聖は晶が郁人の話をするのを聞きたくなかった。晶の気持ちは痛いほどわかる。振り向いてもらえない辛さは今まさに自分も感じている事だったから…… 「やっぱりもう、諦めようかな──」 そう呟いて晶は一聖の胸に顔を埋めて眠ってしまった。 一聖は晶を抱き上げ部屋に入る。自分のベッドにそのまま寝かせ、頭を冷やすためにシャワーを浴びた。自分に抱きかかえられ涙を零し眠る晶を見て、最後に無理やりこいつを抱いて俺も諦めようと頭をよぎった。 「郁人のこと諦めるの、やめたから」そう言われてから晶とは今日までセックスをしていない。もうすっぱり諦めようと思った。でもこんな姿になって弱っている晶に付け込もうとしている自分もいる。こんな事をしたって晶は自分に向くわけがないともわかっていた。 「俺も一体何をやってんだろうな……」 一聖が一人そう呟いたところで玄関のチャイムが鳴った。それと同時に郁人の声。早く開けろとドアを叩き壊す勢いで叩いている。流石にこれは近所迷惑だと諦め、一聖はドアを開けた。 「お前っ……!」 一聖の姿を見た郁人は表情を変えた。そりゃ好きな女がベッドで寝ていてムカつく男がシャワーを浴びて上半身裸でいるんだ。どんなバカでもこの状況はすぐに察するだろう。 寝ている朱鳥を起こさないよう、二人で小声で罵り合う。元は一聖も郁人のことはそれほど嫌いでもなかった。気のいい奴とすら思っていた。それなのに、晶が恋心を抱いているとわかった途端嫌いになった……これはただのやっかみ、妬みだ。そう思ったら、一聖は自分がとても小さく思えた。 もう潮時── 「……郁人来てる」 一聖は眠っている晶の耳元で小さく囁く。晶は目が覚めたのか「やだ……」と零し背中を向けた。ここまでやっといて嫌だはねえだろうと、一聖はその背中に声を掛けた。 「ケジメつけなくていいのか?……それとも俺にしとくか?」 郁人に聞こえないようそう呟くと「それは嫌だ」と即答され、怒りを通り越し可笑しくなった。そんなに俺じゃダメなのかよ……と一聖も踏ん切りをつけ、郁人の肩を思いっきりど突いて部屋から出た。どんな結果であれ、晶が笑っていてくれればそれでいいや……と一聖はひとり溜息を吐いた。

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