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第6話

「ちょっとさ……寄りたいところがあるんだけど」 晶は郁人の顔も見ずにそう呟く。「ん?いいよ」と郁人は機嫌よく返事をし、晶について行った。 「ねえ、朱鳥ちゃんの格好の時は朱鳥ちゃんって呼んでほしい?それとも晶でいい?」 若干浮かれた様子の郁人が晶にそう聞くも、どっちでもいいと冷たく言われ口を尖らす。 「なんだよ晶、ご機嫌斜めか! せっかく相思相愛でおつき合いすることになったのにさ、なんかつれなくね? 嬉しくないの?」 「………… 」 嬉しくないわけがない。晶はまだこの状況を信じることが出来ずにいた。もっとちゃんと確信が欲しい……今度こそ郁人に嫌われてしまうかもしれない。そう思いながら晶は目的の場所まで黙々と歩く。そして程なくしてその場所に到着した。 「わお……寄りたいところってここ?」 郁人はあからさまに動揺している様に見えた。ラブホテルを目の前に無理もないよな……と晶は溜息を吐く。 「そう。やっぱり無理だろ? もういいよ── 」 「マジかよ! いいの? 本気にしちゃうよ? じゃ、気が変わらないうちに、さっ! 行こうか」 郁人はがっしりと晶の肩を抱く。「逃がさねえから……」と囁かれ、驚く晶はぎゅっと唇を噛んだ。 部屋に入ると郁人は赤い顔をしながら辿々しく晶を抱きしめる。そんな郁人に晶は困惑するばかりだった。 「こんなところまで来てどういうつもりだ?」 「どうもなにも誘ったの晶じゃん…… 俺心臓飛び出しそうなんですけど。ねえ、ここに俺を誘ったってことはさ、期待していいんだよね? ……抱いてもいいんだよね?」 ここまで郁人に言われても半信半疑な晶はウィッグを外し、郁人に「待ってろ」とだけ言ってシャワーを浴びる。朱鳥ではなく晶の姿になれば嫌でも郁人は現実を見るだろう。そしてそこまでしても同じ態度を取ってくれるなら心から喜んでもいいのかな、と晶は思った。 シャワーを終え部屋に戻ると郁人はベッドに腰かけている。目の前にずっと恋焦がれていた人がいる。抱いてもいいか? と言ってくれた。信じられなけど本当なんだ、と晶は下着姿で郁人の上に跨った。 「俺もシャワー浴びたい」 「いい。このままで……」 さあ、どうする? 怖じ気づいたか? 様子を伺うように晶は郁人に顔を寄せキスを強請る。 「ねえ待って、晶って初めてじゃねえの?」 郁人は怖気付くどころか、跨る晶の尻を撫でながら不機嫌そうにそう聞いてきた。 「そりゃ……ってお前、何期待してんの? 俺だって人並みに経験済みですけど……」 「でも俺、男初めてだよ? なんかショック……」 「いや、お前に言われたくねえから」 思ってもみない郁人の反応に拍子抜けする。男でも関係ないのか? 本当に俺でもいいのか? 晶はようやくじわじわと嬉しさが増してきた。 「そもそも男で勃つのかよ」 そう言う晶に郁人は強引にキスをした。一聖の部屋でしたのとは違う荒々しいキス。晶はその強引さに気圧され、力が抜ける。 「見て! ちゃんと勃つし」 気付いたら押し倒されていて、郁人の股間が太腿に押し当てられている。ズボンの上からでもはっきりと分かる郁人の昂りに、晶は泣きそうになってしまった。 「その報告……調子狂う」 「でも好きなんだろ? 晶……俺は好きだよ。抱いてもいい?」 今度は優しく唇を重ねる。 「こんなにドキドキしてる」と郁人は晶の手を取り自分の胸にあてた。郁人の言う通り自分と同じくらい大きな鼓動。 「……好き。郁人、本当に抱けるの? 無理しなくていいよ」 無理じゃねえ! と憤慨する郁人の唇に指をあて、晶は「そうじゃなくて……」と郁人を寝かせた。 「俺がリードしてやるから郁人は何もしなくていいよ……」 晶はそう言って郁人の服を脱がし始めた。郁人は積極的な晶にただされるがまま、それでもどこか辿々しい晶にもどかしさを感じながらじっと見守っていた。

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