2 / 10

第2話

 今日もいつもと同じ。そう思っていたのに、誰かが僕の視界をさえぎるように立つ。  見上げると同じ二年である深い緑色のネクタイが目につき、そして端正な顔たちの男と視線がぶつかる。 「君はいつもここにいるな」  話しかけられて、驚いて喉がつまる。  顔を背けて身体を縮こめて警戒する僕に、まいったなという呟きが聞こえた。 「別にいじめるわけじゃない。僕は五組の高沢(たかざわ)だ。君は?」  と尋ねられたが、僕は何もこたえずに相手が諦めて去っていくのを待つ。  暫くすると、ため息が聞こえて離れていった。やっとあきらめてくれた。  だが、それが始まりだった。次の日も、また次の日も、しつこく声を掛けてくる。その度に自分自身を守り続けてきた。  名は確か、高沢だったか。  どこかで聞いたことのある名だと思っていたら、教室で話していた女子のグループからその名が出てきた。 「高沢クン、今日もカッコいい」  二階の窓から校庭を眺め話している。窓際の席なのでそちらへと視線を向ければ、ジャージを着た生徒が見えた。  毎日顔を見せるのですっかり覚えてしまった。  あの顔が、真っ直ぐに目を向けて話しかける。女子はきっと黄色い声をあげるだろうが、僕にとっては居心地が悪いものだった。

ともだちにシェアしよう!