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第4話

 あの場所へはもういけない。きっと懲りずに彼は来るだろう。  どこで時間を潰そうかと、お弁当を持って教室から出ようとしたとき、女子がざわつく。  まさかと顔をのぞかせれば、そこに高沢がたって、 「一緒に昼飯を食おう」  手にしていたお弁当を掲げる。  うんざりとした顔を彼に向ければ、何故か笑われた。 「やっぱり嫌な顔されたか」  解っているのなら僕の前に現れなければいいのに。  だが、高沢は図太い性格をしているようで、僕の手を握りしめて強引に引っ張っていく。  背が低く身体の細い俺は簡単に力負けしてしまう。 「や、離して」  大きくて暖かい手。ぶわっと胸がざわついた。  手を繋いだのなんて何年振りだろうか。だから余計に緊張するんだ。  ふいに目頭が熱くなってきて、手を振り払おうとするが離れない。 「逃げない、無視しない。それを約束してくれるなら」 「わかったから」  手が離れた。温もりを消そうと握られていた手を摩り、少しだけ気持ちが落ち着いた。 「空き教室を借りているから、そこへ行こう」  と目的の場所へ向かい中へと入る。  長テーブルの上にオレンジ色のかぼちゃがおいてあった。しかも、歪にくりぬかれている。 「あ、これは……」  恥ずかしそうにそれを段ボールの中へとしまった。  まさか、あれは彼が作ったジャック・オー・ランタンだろうか。 「不器用なんだ」  顔が良いだけでなく、器用になんでもこなしていたら完全に僻んでいただろうな。  欠点を見つけて少しだけ高沢を近くに感じた。 「あぁ。なぁ、冴木は器用か?」 「さぁ。作ったことがないし」 「弁当を食べたら作って見せてくれ」   どうして僕がと思ったが、作るまでしつこくされそうな気がする。

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