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第5話 不協和音
午後の授業が終わると、部活に入っていない僕は、同じく部活をしていない拓真と一緒に帰る。
拓真に、「今日の朝、体調が悪かったんだからゆっくり休めよ」と言われ、駅で別れてまっすぐ家に帰って来た。
玄関のドアを開けて入ると、悠ちゃんの靴がない。「やっぱりまだ帰ってないかぁ」と呟いて、僕は靴を脱いで自分の部屋へ着替えに向かった。
悠ちゃんは、たいてい僕より帰ってくるのが遅い。週に数回しているバイトのせいでもあるし、バイト以外の日は、誰かと遊んで帰って来る。誰かっていうのは、涼さんか、涼さんじゃなければ女の人だ…。それも、涼さん曰く、いつも違う人らしい。だって、悠ちゃんは背が高くてかっこいいから、すごくモテるんだ…。
ただ、女の人と遊んでも、この家には絶対に連れて来ないから、それは助かっていた。悠ちゃんが女の人と親しくしているのを見るのだけは嫌だ。きっと、僕は耐えられない。だって僕は……。
不安な気持ちを打ち消すように頭を振ると、部屋着に着替えてリビングに行く。キッチンに入って手を洗い、晩ご飯の支度を始める。
ーー悠ちゃんの美味しいって顔を見たいし、今日は悠ちゃんの好きなハンバーグにしよ。
昼間の悠ちゃんの姿を思い出して、僕は少しウキウキとしながら、玉ねぎを取り出し皮を剥き始めた。
僕が小学六年の時に母さんが亡くなってから、ご飯の用意は僕がしていた。父さんは仕事があるし、中学に入ったばかりの悠ちゃんは、勉強に部活にと忙しかったから。
でも、僕は時々母さんの料理を手伝っていたから、作るのは嫌じゃなかった。それに今は、料理を作るようになって三年は経つから、そこそこ上手いと思う。特に、ハンバーグは得意だと言ってもいいかもしれない。
ふっくらと焼き上げたハンバーグの出来に満足して、テーブルに料理を並べていく。
時計を見ると、七時を示していた。
ーーはりきって早く作っちゃったかな…。悠ちゃん、今日バイトと遊び、どっちなんだろう。
悠ちゃんがまだ帰って来そうにないと思って、先にお風呂掃除をする事にした。
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