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第7話 不協和音
結局、悠ちゃんのことが気になって、ほとんど眠れなかった。
悠ちゃんは、夜中の一時頃に帰って来た。悠ちゃんが帰って来てくれたことにホッとしたけど、何をしてたのかと嫌な想像ばかりをしてしまう。胸がギシギシと痛くて、次から次に涙が溢れてきて、部屋の外に声が漏れないように、ずっと布団に潜り込んでいた。
朝になり、目覚ましが鳴る前に起き出して、制服に着替えてリビングに行く。鞄とブレザー、ネクタイをソファーに置いてテーブルを見ると、並んでいた料理は無くなっていた。
慌ててキッチンへ入ると、お皿が綺麗に洗って置いてある。ゴミ箱を覗いてみても、残飯は入っていない。
一晩中流して、もう出ないと思っていた涙が、また溢れ出した。
ーー悠ちゃん…、ちゃんと食べてくれたんだ…っ。どうだった?美味しかった?
僕はその場にうずくまって、しばらく泣き続けた。
思う存分涙を流して落ち着くと、急いで洗面所に行って顔を洗った。鏡を見て大きく溜め息を吐く。
泣き過ぎて、瞼が赤く腫れてしまっていたのだ。仕方なく、髪を整える時に、長めの前髪で隠すようにする。
それからキッチンに戻って、小さめに作っておいたハンバーグといつもの卵焼き、ブロッコリー、ポテトサラダ、ほうれん草の胡麻和えをお弁当箱に詰めた。
朝ご飯に、一人分の目玉焼きとウインナーを焼き、食パンを一枚だけ焼いてバターを塗る。ブラックのコーヒーを淹れた所で、悠ちゃんが起きてきた。
「あ…悠ちゃん、おはよう。僕、今日は早く行くから、食器は流しに置いておいてね。お弁当も忘れないで。じゃあ、行ってきます…」
「え?おいっ、玲っ!」
ソファーの上の荷物を手に持ち、慌てて玄関へ向かう。悠ちゃんが後ろから呼んでいたけど、僕は聞こえないふりをして家を出た。
だって、今、悠ちゃんと顔を合わせたら泣いたのがバレてしまう。鬱陶しい奴だと思われてしまう。僕は、これ以上、悠ちゃんに嫌われたくないんだ…。
少しでも早く家から離れようと小走りになっているのに気付いて、足を止める。今朝は、食欲が無くて何も食べてないから気をつけないといけない。ただでさえ貧血気味なのに、走ると倒れてしまうだろう。時間に余裕はあるのだからと、僕はゆっくり歩き出した。
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