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第10話 不協和音

悠ちゃんに聞こえてしまうんじゃないかと思うぐらい、僕の心臓がドキドキとうるさい。 次に悠ちゃんは、僕の額にそっと触れた。その時に初めて、額に包帯のような物が巻かれている事に気付いた。ついさっきまで、あんなにズキンと痛かったのに、悠ちゃんに触れられてるだけで、痛みが引いていく気がする。 ーーもっと僕に触れて欲しい…。 そう強く願ったけれど、扉を開けた人物よって、悠ちゃんの手は呆気なく離れてしまった。 「花森、ちょっといいか?」 「はい…」 悠ちゃんが呼ばれて、僕の傍から離れる。 「今、担当の先生から聞いたんだけどな、目が覚めたら帰っていいそうだ。一週間後に傷を見せに来て欲しいって。あと、薬を渡すから、家でちゃんと塗って、飲ませてくれって。俺は今から学校に戻らないといけないから、任せていいか?弟に明日はゆっくり休め、と言っておいてくれ」 「はい…。あの…心配なので、俺も明日休んでいいですか?」 「そうだな…わかった。おまえの担任に伝えておくよ。じゃあ、気を付けてな」 「はい…、ありがとうございました」 どうやら相手は僕の担任らしく、悠ちゃんに必要なことを伝えに来たようだった。 担任の先生が帰ってしまって、悠ちゃんが僕の隣に戻って来る。「目が覚めたら…」って言ってたけど、僕はすでに起きてる。でも、寝たふりをしているから、どう起き出せばいいか困ってしまった。 しばらくの静寂のあとに、悠ちゃんの温かい手が僕の左手を包んだ。 「ふ、ちっこい手だな…」 そう言って、悠ちゃんはくすりと笑うと、僕の手を持ち上げて、指先にキスをした。 いつもとはまるで違う甘い仕草に、どうしたんだろうと、僕の胸はドキドキしっぱなしだ。 僕の心臓の音で起きてるのがバレてしまうと焦っていたら、急に悠ちゃんが立ち上がって部屋から出て行った。 僕は、目を開けてゆっくりと起き上がり、悠ちゃんの唇が触れた指を見て、そしてその指で唇に触れる。 ーーねぇ悠ちゃん…。さっきのは…あの日の……。 一年前の、悠ちゃんが家を出る前日の夜を思い出して、胸がギュウッと締めつけられた。

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