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第11話 不協和音
ベッドに座ってぼんやりしていると、足音が聞こえて悠ちゃんが戻って来た。
起きてる僕を見て一瞬足を止め、すぐに目を逸らしてしまう。僕の足先を見ながら、悠ちゃんが言った。
「玲…気分はどうだ?動けるか?大丈夫そうなら帰るぞ…」
「うん…大丈夫。迷惑かけて、ごめんね…」
僕は、悠ちゃんに謝ってベッドから降りた。まだ、目眩が続いていたけど、これ以上、悠ちゃんに迷惑をかけたくない。面倒臭い奴と思われたくなくて、僕は倒れそうになる身体に力を込めて、何とか普通に歩こうとした。
でも、一歩踏み出すごとにグラリと視界が揺れる。急速に冷たくなる指先を強く握りしめた僕の腕を、悠ちゃんが掴んで止めた。
驚いて目を瞠る僕の前で、しゃがんで背中を向け「乗れ」と言う。
「えっ、いいよ。自分で歩ける…」
「まだふらついてんだろ。早く帰りたいから乗れ」
そんな風に言われてしまうと何も言えなくなる。だって、今の僕はのろのろとしか歩けないのだから。
僕は、そっと悠ちゃんの肩に手を置く。悠ちゃんは、軽々と僕を背負うと、自分と僕の鞄を持って、さっさと歩き出した。
病院の支払いは、担任の先生が済ませてくれていたらしく、薬を受け取り処置の方法を聞いて、タクシーで帰って来た。タクシーを降りてから家の中までも、悠ちゃんは、僕を背負ってくれた。
この日は、悠ちゃんが作ったご飯を食べた。ちょっと卵が固いオムライスだったけど、とても美味しかった…と思う。だって、いつも僕に見向きもしない悠ちゃんが、時折り優しい目で見てくるから、ドキドキしてあまり味がよくわからなかったんだ…。
ご飯の後に薬を飲んで、シャワーを浴びた。額を切ってるから、髪の毛は洗えなかった。
シャワーを終えてリビングに行き、悠ちゃんに声をかける。
「悠ちゃん、今日はありがと。僕、もう寝るね…。おやすみ」
「ああ…。玲、何かあったら俺を呼べ」
「うん、わかった」
僕は、微笑んでリビングを後にした。自室に行ってベッドに潜ると、興奮しているのが自分でわかる。
今日は、いっぱい悠ちゃんに触れて話せた。悠ちゃんにしたら、なんてこと無いのかもしれないけど、僕はすごく嬉しかった。
ーー目眩は辛いし傷も痛いけど、今日は良い日だったな…。
こんな事を思ってるなんて知れたら、悠ちゃんは怒るかもしれない。だけど、僕はとても幸せな気持ちのまま目を閉じた。
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