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第13話 不協和音

僕は慌てて袖で顔を擦った。それを見た悠ちゃんが、苦笑いをして僕の腕を止める。 「バカ…。そんなに擦ったら赤くなるだろ。別に俺は怒ってないから、もう泣くな…。ほら、部屋に連れて行ってやるよ」 「うん…」 悠ちゃんが伸ばした手に僕の手を乗せる。僕の手を引いて立たせると、ひょいと簡単に僕を抱き上げた。 僕は、恐る恐る悠ちゃんの首に腕を回して、首筋に顔を埋めた。悠ちゃんの濃い匂いがして、またクラクラと目が回りそうになった。 僕をベッドに降ろすと、悠ちゃんはすぐに部屋を出て行った。ついさっきまで感じていた温もりが離れてしまい、急速に寂しくなる。悠ちゃんが出て行ったドアをじっと見つめていると、すぐに布団を抱えて戻って来た。 「えっ…、どうしたの?」 僕は、驚いて思わず立ち上がろうとする。 「バカ、寝てろよ。離れてたらおまえの体調が悪くなった時、気付けないだろ?傍にいるから、今度はちゃんと俺に言え」 ベッド横の床に布団を敷きながら、悠ちゃんが言った。 「い、いいの…?ありがと…」 嬉しくて声が震えてしまう。僕は、悠ちゃんの方を向いてそっと身体を横たえた。 悠ちゃんも布団に寝転ぶと、リモコンで電気を消して天井を見る。すると、思い出したように急に話し出した。 「そう言えば、おまえのスマホに拓真って奴から、大量のメールと着信が入ってたぞ。拓真って…あいつか?電車でいつもおまえの傍にいる…」 「え…、あ、そうだよ…。じゃあ、早く連絡しないと…」 そう言って起き上がろうとする俺を、悠ちゃんが名前を呼んで止める。 「玲、ちゃんと寝てるんだ。そいつには、何回目かの電話の時に俺が出て、おまえが大丈夫なことや、今日休むことも言ってある。見舞いに来るとか言ってたけど、断っておいた。だから今日と、明日明後日の土日はゆっくりと休め」 「うん、わかった…。悠ちゃんも家にいる?」 「今日は、俺も休んで家にいる。だけど、土曜は一日中バイトだ。日曜も…出掛ける用事がある」 「そっか…。今日も、予定があったら行って来ていいよ。一人でも大丈夫だから…」 「今日は一日おまえの傍にいる。俺のことは気にしなくていいから。ほら、もう休め」 「うん…おやすみ…」 「ああ…」 傍に悠ちゃんがいる安心感から、だんだんと瞼が重くなってきて、僕はすぐに眠りに落ちた。

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