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第19話 不協和音
僕が俯いたままでいると、頭にふわりと手が乗せられて優しく撫でられた。
「玲くん、顔上げて?そっか、好きな人がいるなら仕方ないね。でも、俺はしつこいから、隙があれば狙っちゃうよ?覚悟しててね」
僕の好きな人のことを深く突っ込んで聞かれなくて、ほっと安堵の息を吐いた。だって、悠ちゃんには知られたくない。悠ちゃんに知られてしまうと、今以上に僕を避けるようになるかもしれないから。
僕は、顔を上げて涼さんに微笑む。涼さんは本当に優しくて、まずは僕の気持ちを優先してくれるから、彼といるのは心地が良い。
そんなふうに思っていると、向かい側から突き刺さる鋭い視線に気付いた。そちらを向くと悠ちゃんと目が合う。悠ちゃんは、何か言いたそうに僕をジッと見ていたけど、すぐに唇をひき結んで、目を逸らしてしまった。
食事の後に、「眠くなったから泊まりたい」と言う涼さんを、悠ちゃんが強引に家から追い出した。
「残りのケーキ、玲くん全部食べてね。また俺とスイーツ巡りしよう」
「はい、ありがとうございました」
涼さんは、悠ちゃんに背中を押されながら、玄関に向かう廊下から僕に大きく手を振って帰って行った。
僕も手を振り返してからリビングに戻る。キッチンで食器の後片付けをしていたら、僕のすぐ背後に悠ちゃんが立った。
「玲…」
悠ちゃんの声を聞いて、水道の水を止める。
「なに?悠ちゃん、どうしたの?」
「おまえ……、…っ」
悠ちゃんが苦しそうに口をパクパクさせる。
僕は首を傾げて、悠ちゃんの次の言葉を待った。
「おまえ…好きな奴が、いるのか…?」
その言葉に、僕の肩がビクリと跳ねる。
ーーどうしよう…。ここで言っちゃう?僕の気持ち…。
悠ちゃんに知られるのは怖いけど、本当は知って欲しい気持ちもある。僕は拳にギュッと力を込めて、震える唇を開けようとした。
「もしかして…あいつか?電車で一緒の…」
「え?拓真のこと?拓真は好きだけど、友達だよ?ぼ、僕の、好きな……」
「いいっ。やっぱいいわ…。悪かったな、変なこと聞いて。俺、シャワー浴びてくる。今日は風呂沸かさなくてもいいよな?」
「…え…うん、いいよ…」
覚悟を決めて伝えようとした僕の気持ちを、拒絶された気がした。
でも、そうだよね…。僕の気持ちを聞いたところで、悠ちゃんは困るだけだ。やっぱりこれ以上嫌われないように、面倒な奴だと思われないように、僕の気持ちは悠ちゃんに知られてはダメだ。
僕は自分の中でそう結論づけて、自分の気持ちに蓋をした。
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