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第31話 不協和音
身体に感じる涼さんの温もりに、やっとまともな呼吸が出来るようになる。
僕が落ち着いたことを確認すると、涼さんは出っ放しだったシャワーを止めて、優しい声で言った。
「落ち着いた?もう大丈夫かな?ほら、まだ身体が冷たいからお湯に浸かって。もう沸いてるから。それとも、俺と一緒に入る?」
未だ涼さんの腕に顔を寄せている僕の髪を撫でながら囁く。僕が顔を上げると、「ん?」と覗き込んできたので、『一人で大丈夫』の意味を込めて、小さく首を横に振った。
涼さんは笑って、トントンと僕の背中をあやすように叩くと、立ち上がって風呂場のドアに手をかけた。
「俺はドアの前にいるから、辛かったら言うんだよ。でも、ちゃんとあったまるまで出ちゃダメだからね」
そう言うと、風呂場から出てバタンとドアを閉めた。
僕はのろのろと立ち上がり、バスタブのフタを開けてゆっくりと足から順番に浸かる。肩まで浸かると、静かに細く息を吐いた。
落ち着いたとはいえ、まだ少し息が苦しい。でも、すぐそばに涼さんがいてくれると思うと、安心感からかパニックになることはなかった。
充分に身体が温まったのを感じて、僕はバスタブから出てフタを閉め、半透明のドアに手をかけた。
「涼さん…、僕、もう出ます。ちゃんとあったまりました…」
「ほんと?じゃあ出ておいで。俺が拭いてあげる」
「え…?でも…」
「見ないようにするから大丈夫。早くおいで」
「……」
僕がドアを押して開けると、すぐにバスタオルで身体が包まれた。身体を包まれたまま、別のタオルで髪の毛をわしゃわしゃと拭かれる。よく拭いた後には、ドライヤーで丁寧に乾かしてくれた。
「玲くんの髪の毛、サラサラだね。肌も白くて滑らかで、ほんと可愛い…。これ、新しいパンツと俺のTシャツとスウェット。ちょっと大きいけど、これ着てて。濡れた服を洗濯乾燥するのに時間かかるから、着替えたらリビングに行って待っててね。じゃあ、俺も風呂に入るよ」
そう言うと、おもむろに服を脱ぎ出した。チラリと見えた、筋肉の付いた男らしい身体にドキリとしてしまう。無頓着にズボンと下着に手をかけた所で、慌てて僕は後ろを向く。背後でクスリと笑い声が聞こえ、脱いだ服を洗濯乾燥機に放り込んでスイッチを押すと、ドアが閉まる音がして、涼さんが風呂場に入っていった。
僕は急いで身体を拭いて、出されていた服を着る。Tシャツの袖もスウェットの裾もすごく長くて、何重にも折り曲げた。
洗面所を出てリビングに入り、ソファーに座らせてもらう。ソファーの前のテーブルには温かいココアが入ったカップが置かれていて、『飲んでてね』と書いた付箋が付いていた。
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