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第32話 不協和音

ココアを飲み干した頃に、リビングのドアが開いて涼さんが入って来た。キッチンに行き、冷蔵庫から水のペットボトルを取って僕の隣に座る。ふわりとボディソープの匂いがする涼さんを見上げると、髪の毛がまだ濡れていた。 「涼さん…、髪が濡れてる…」 「ん?ああ、いいんだ。俺はいつも自然乾燥だから」 「じゃあ僕の髪の毛も乾かさなくて良かったのに…」 「だーめ。玲くんの髪はサラサラで綺麗だから、ちゃんと手入れをしないと。どう?温まった?寒くない?」 「はい…。大丈夫です。色々とありがとうございます」 ペットボトルの水を一口飲んで、涼さんが僕の髪の毛を優しく梳いていく。 「ねぇ…、玲くんの好きな人って、悠希なんでしょ?だから、あんな姿を目にして、辛かったんだよね?」 僕は明らかに見てわかるぐらい、肩を跳ねさせて、顔をこわばらせた。 「あ…、あの…」 「大丈夫。誰にも言わない。だから俺には本当のことを教えて」 髪の毛を梳いていた手が、僕の頰にスルリと降りてくる。僕は、頰に涼さんの手の温もりを感じながら、小さく頷いた。 「…僕は、悠ちゃんが好き。兄弟の好きじゃなくて、あの…恋愛の意味で…」 「うん、そっか。まあ、何となくそうかなぁ…とは思ってたけどね」 「えっ、僕…そんなにわかりやすかった?」 「いや、普通はわからないと思うよ?俺がよく玲くんを見てたからだね。悠希だって玲くんの気持ちに気付いてないでしょ?あ…でもあいつは少し鈍いのかもな」 他の人には気付かれてないと聞いて、ホッと息を吐く。 「え…と、僕と悠ちゃんが血が繋がってないのは…」 「うん、それは悠希に聞いて知ってる。子供を連れて、親が再婚したんだってね。玲くんのお母さんが亡くなられてからその事を知ったんだって?」 「そうなんです…。僕は、不謹慎だけど、実の兄弟じゃないとわかって、嬉しかった…っ。だって、僕はずっと小さい頃から悠ちゃんが好きだったから。気がついたら、悠ちゃんは僕の全てになってた…。兄弟なのに、こんな気持ちになる自分はおかしいと、ずっと苦しかった…。だから、兄弟じゃないとわかった時、悠ちゃんを好きでいてもいいんだって、この気持ちを持つことを許された気がしたんです…。でも、その頃から悠ちゃんが僕に冷たくなった。会話も減り僕を避けるようになった。たぶん…本当の兄弟じゃない僕が疎ましくなったんだと思う…。僕は…、僕の気持ちを受け入れてもらうなんて考えてなくて、ただ、兄弟としてでいいから…ずっと傍にいれたら…それだけでいい…って…」 涼さんの腕が伸びてきて、僕を膝に乗せて胸に抱き寄せる。僕の背中を撫でながら、「そんなに泣かないで…」と呟いた。

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