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第33話 不協和音

涼さんの言葉で、初めて自分が泣いてることに気付いた。その途端に、一気に悲しみが押し寄せてきて、僕はしゃくり上げて涙を流す。 「いっぱい泣いていいよ。いっぱい我慢してきたんだね。前に甘やかせてあげるって言ったでしょ?だから、俺にもっと甘えて…」 僕は、涼さんの服を掴んで、「ゆうちゃん…っ」と名前を繰り返し呼びながら、泣き続けた。 思いっきり泣いてようやく涙が止まり、ひくひくと小さくしゃくり上げる。涼さんが、僕の背中をトントンと叩いて「落ち着いた?」と優しく聞いてくる。 涼さんの胸にしがみ付いたまま小さく頷くと、涼さんが僕の顔を両手で挟んで持ち上げた。 「あ〜やばい…。そんな顔見せられたら俺のものにしたくなる。玲くん、今日は俺ん家に泊まろうか。実は悠希にはメールを送っておいた。あいつだって、家にいるかどうかわかんないし、帰らなくていいよ」 「え、でも、涼さんのご両親は?」 「それがラッキーなことに、昨日から結婚二十周年とかで旅行に行ってんの。週末まで帰って来ないよ」 「兄弟は…?」 「俺には姉がいるんだけどね。二歳上で、今は地方の大学に行って下宿してる。だからこの家には俺一人だよ。寂しいから玲くん、泊まっていってくれない?お願い」 「ふふ…、わかりました。じゃあ、お世話になります」 「うん、お世話させて?」 笑顔でそう言うと、僕の額にチュッとキスをした。 「ひゃあっ」と驚いて、慌てて額を押さえると潤んだ瞳で涼さんを見る。「…っ、ちょっ、色々とやばい…」と涼さんが呟いて、慌てて僕を膝の上から降ろした。 急いでキッチンに行き、ペットボトルの水を一気に飲む涼さんを首を傾げて見る。何度か深呼吸をして振り向いた涼さんは、いつもの笑顔で「ところで晩ご飯何がいい?」と聞いてきた。 お世話になるのだからと、冷蔵庫の中を見させてもらって、豚肉があったから、じゃがいもや人参、アスパラに巻いた肉巻きを作った。後はご飯を炊いて、中華調味料でエノキと卵でスープを作る。 出来上がった料理を、今日は向かい合わせで座って食べた。 相変わらず涼さんは、「美味しい!可愛い!嫁に欲しい!」を連発してて、僕はすごく恥ずかしくなった。 賑やかな食事は楽しくて、僕や涼さんの、それぞれの鞄の中に入ったままのスマホが鳴り続けてる音に、全く気付かなかった。

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