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第42話 掌中乃珠

少し前から疲れた様子を見せていたけど、母さんは、「ちょっと休めばすぐに治るわよ」と笑っていたから、安心していた。 俺達が学校に親父が会社に行ってる間の、家で一人でいる時に倒れたらしい。俺と玲が家に帰って見つけた時には手遅れだった。 俺は、怖くて悲しくて堪らなかったが、母さんにしがみ付いて泣きじゃくる玲を見て、「俺がしっかりと玲を守らなければ」と強く思った。 母さんの葬式の間、玲はずっと俺の手を握って離さなかった。俺も玲の手をしっかりと握り返して、時おり涙を流す玲の顔を、ハンカチで拭ってやる。 そんな俺達の様子を見ていた親父の従兄弟のおじさんが、驚くことを言った。 「おまえ達は、本当の兄弟みたいに仲良いんだな。え〜っと、玲…くんだっけ?血の繋がった母親が亡くなって寂しいだろう?悠希、おまえがちゃんと面倒見てやれよ?」 「え?」 俺と玲は、何を言われたのかよくわからなくて、無意識にお互いの手を強く握り合った。 俺はすぐに玲の手を引いて親父の傍へ行き、ついさっき言われたことを話した。 親父は、一瞬目を見開いてから深く息を吐いた。そして、俺と玲の頭を優しく撫でながら話し出した。 「おまえ達は小さ過ぎて覚えてないもんな…。悠希が三歳、玲が二歳の時に、俺と結(ゆい)は子連れで再婚したんだ。悠希、おまえは初めて玲に会った時に『天使がいる』と言って、大喜びだったんだぞ?玲もすぐに悠希に懐いてな。結や俺よりも、悠希にくっ付いて離れなかった。おまえ達は幼なかったから、俺達四人は最初から家族だと思ってたんだよ。でもそれでいい、血の繋がりなんて関係ない。だって、俺達は本当に仲の良い家族だったんだから。俺は、心から結を愛してた。玲のことも愛してるよ。もちろん悠希も…。周りの関係ない奴らが余計なことを言ってきても気にするな。俺達は、これからもずっと一緒だ。それに玲には、無理のない程度で、結直伝の料理を作ってもらいたい。玲にいてもらわないと、俺と悠希は餓死してしまうよ?」 親父に優しい眼差しで顔を覗き込まれ、玲はぽろぽろと涙を零しながら頷いた。親父は玲の頭を抱き寄せて、背中をトントンとリズムよく叩く。 そんな二人を目にした俺は、親父にさえも嫉妬して、親父の腕から玲を奪い返すと、両腕でぎゅうっと抱きしめた。 親父は呆れた様子で笑いを漏らす。 「おまえ…、俺にもちょっとぐらい、玲を貸してくれよ。玲を大好きなのはわかるけどさ」 親父の言葉にドキリとする。たぶん親父は、俺が弟として玲が好きなんだと思ってるのだろうけど。 周りの目もあるのだから、気をつけないといけない。でも、玲のことになると、我慢が出来なくなってしまう。 俺は、誤魔化すように親父を睨むと、「玲は俺が面倒見るから、親父は母さんの傍にいてやれよ」と、祭壇の上で微笑む母さんの写真に視線を向けて言った。

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