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第44話 掌中乃珠
俺が玲に素っ気無い態度を取り始めた最初の頃は、「なんで?悠ちゃんどうして?僕、何かした?」と、玲が何度も問い詰めてきた。
でも、明確に答えることが出来ない俺は、玲が問い詰めて来るたびに、玲から逃げた。
その頃の玲は、朝起きると必ず目を腫らしていた。きっと、夜に一人で泣いているに違いない。俺が、泣かせてしまっているんだ。
誰よりも泣かせたくない玲を、いつも笑っていて欲しい玲を、俺が泣かせてしまってることが辛かった。
でも、玲に俺の欲望をぶつけて壊してしまうよりはマシだ。そう思って、玲に冷たい態度を取り続けた。
そのうちに、だんだんと玲の顔色が悪くなり痩せてきた。ただでさえ華奢な玲が、青白い顔をして今にも倒れそうにフラフラで元気がない。
玲…なぜだ?兄弟なんて大きくなっていくにつれて、離れていくもんだろ?だから、俺のことなんか嫌いになれよ。離れていけよ。なんで、そんなに傷付いて弱ってるんだよ…っ。
玲に嫌いになって欲しくて冷たくしてるのに、未だ俺を慕って元気がなくなっていく玲を見て、俺の決心が揺らぎ出す。
そしてとうとう、昔から身体の弱かった玲は、熱を出して寝込んでしまった。
前日から三十八度の熱が続き、顔を赤くして苦しそうに荒い呼吸を繰り返している。前日に会社を休んで、玲を病院に連れて行った親父の代わりに、この日は俺が学校を休んで玲の看病をした。
何とか少量のお粥を食べさせ、薬を無理に飲ませてからは、玲は赤い顔をして眠っていた。
辛いのか、時おり眉間にシワを寄せて小さく唸る。俺は、玲の顔や首筋に浮き出た汗を小まめに拭いてやり、華奢な熱い手を、俺の手で包みこむ。そして、とても小さな声で「玲…好きだよ…」と呟いた。
俺の声が聞こえたのか、単に夢を見ているだけだったのか、俺の呟きに応えるように、玲がふわりと可愛く微笑んだ。
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