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第50話 屋烏乃愛

悠ちゃんが僕の手を握って、じっと見つめてくる。僕は、悠ちゃんに触れられて嬉しいのと、間近で見つめられて恥ずかしいのとで、体温が急速に上がって顔が火照ってきた。心臓もドキドキと鳴ってうるさいくらいだ。 涼さんの家からずっと、悠ちゃんが変だ。 女の人とどっかに行ったんだと、僕は死にそうなくらい辛かったけど、悠ちゃんは僕を迎えに来てくれた。 涼さんの家からの帰り道、悠ちゃんから手を繋いでくれた。 お風呂から出た後、僕の料理を夢中で食べてくれた。 そして今、僕の猫舌を笑って、両手を握って優しく見つめてくる。 今日、涼さんに自分の想いを打ち明けて、再確信した。 僕は、悠ちゃんがすごく好き。 涼さんがとても優しくて、甘やかしてくれる暖かい手が心地良かったけど、僕はやっぱり、悠ちゃんの少し冷んやりとするこの手が一番好き。 いつも僕から目を逸らす悠ちゃんが、今は僕を見てくれている。今なら僕から逃げないで、話を聞いてくれる気がする。 僕は一度大きく深呼吸をすると、悠ちゃんの目を見つめ返して口を開いた。 「悠ちゃん……、前に僕の好きな人のことを聞いたでしょ?あのね、僕の好きな人は…」 「言うなっ」 「え…?あ、ごめ…っ」 悠ちゃんに言葉を遮られて、今度こそ伝えようと決心した僕の気持ちが、また拒絶された気がした。 今日の悠ちゃんがあまりにも優しかったから、伝えてもいいかなと思ったけど、やっぱり悠ちゃんにしてみたら、聞きたくないよね…。気持ち悪いよね…。 僕はたちまち目に涙を溢れさせて、ポロリと雫を落としながらソファーから立ち上がろうとした。 でも、悠ちゃんに腕を引っ張られて、悠ちゃんの胸に抱き寄せられてしまう。 「え?な、んで?や…っ、離して…」 「違うっ!玲っ、そうじゃないんだ…っ」 僕のこと、嫌いなくせにどうしてこんなことをするんだろう…と、悠ちゃんの腕から逃れようと抵抗する。そんな僕を離すまいと、悠ちゃんが抱きしめる腕に力を込めて、何か叫んだ。 僕は、涙をポロポロと零しながら悠ちゃんを見上げる。見上げた先の悠ちゃんは困った顔をして、僕の頰に唇を寄せて涙を吸い上げた。その行動に余計に訳がわからなくなって、僕は顔を歪ませる。 「ふぅ…っ、ゆ、ちゃん、僕のことっ、嫌いなんでしょっ。な、なんで、こんなこと…、するの…っ」 涙を流し続ける僕の頰に、何度も何度も口付けてから、悠ちゃんが、僕の額に額をコツンと当てて囁いた。 「俺がおまえを嫌いなわけないだろ。さっき、おまえの言葉を止めたのは、俺から言いたかったからだ。いいか玲、よく聞いて欲しい。俺は、おまえが好きだ。兄弟としてじゃない。恋愛の意味で好きだ。いや…好きじゃ済まされないな。玲、愛してる。初めて会った時から、俺はおまえだけだ」 「……え?」 突然の悠ちゃんの言葉に驚き過ぎて、僕の涙がピタリと止まった。

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