52 / 141

第52話 屋烏乃愛

すぐに薬と水のペットボトルを持って、悠ちゃんが戻って来た。 僕が薬と水を飲んだのを確認すると、ペットボトルを勉強机の上に置いて、悠ちゃんがベッドに上がり僕の隣に寝転ぶ。 「悠ちゃん…、風邪移っちゃうよ?」 「いいぜ…、俺に移しておまえは早く治せよ。それに、おまえの気持ちがわかった今、離れたくない」 僕を胸に抱き寄せて言った悠ちゃんの素直な言葉に嬉しくなって、僕も悠ちゃんの背中に腕を回してギュッと抱きついた。 「僕も離れたくない…。ずっと、こうして欲しかった。…ねぇ、悠ちゃん、何年か前まで、こうして一緒に寝てたでしょ?今日からまた、前みたいに一緒に寝たい…。ダメ?」 少しだけ顔を上げて、熱で潤んだ目を瞬かせて悠ちゃんを見る。 悠ちゃんは僕を見て大きく息を吸い込むと、目を閉じて、はあっ〜と息を吐き出した。 僕は我が儘を言い過ぎたんだと悲しくなって、泣きそうになったところを強く抱きしめられる。 「おまえ…、またネガティブなこと考えただろ?違うからな。これは俺の問題で…。あのな、昔に俺がおまえと同じベッドで寝なくなったあれな…、ホントは俺だっておまえとずっと一緒に寝たかった。だけど、俺が我慢出来なくなったんだ」 「え…?」 何が我慢出来なかったんだろうと、僕は悠ちゃんを見て首を傾げる。悠ちゃんが、顔を寄せて頰に軽くキスを落としながら話を続けた。 「あの頃の俺は、性に興味があったり身体にも変化が出てきた頃だったんだ。しかも、女の裸の写真を見ても何も感じないのに、おまえを抱きしめてるだけで、俺のモノが反応して大変だった。俺はそのうちおまえを襲ってしまいそうで…それが怖くなって別々で寝るようにしたんだ」 悠ちゃんの告白に、長年僕の胸の中につかえていたモヤモヤが晴れて、僕は思わず大きな声を出した。 「そうだったんだ!僕は悠ちゃんが好きだから、悠ちゃんと離れて寝るのが寂しくて嫌だったんだ。だけど、悠ちゃんにしてみたら、弟の僕と寝るなんて気持ち悪いのかなぁ…って。でも違ったんだね…、よかったぁ。ふふ、そんなの気にしなくて良かったのに。僕は悠ちゃんになら何されてもいいのに…」 「バカっ。俺は俺で、おまえは俺のことを兄としてしか見てないと思ってたんだぜ。そんなおまえに手なんか出せるかよ。なあ…玲、わかってるのか?おまえの気持ちがわかったからには、俺はおまえを離さない。もちろん寝る時も一緒だ。でも今度は我慢しない。俺は、おまえを抱く」 僕の目を見て吐き出された悠ちゃんの言葉に、僕は顔を熱くする。でも、しっかりと頷いた。 「うん、いいよ…。僕も、もっと悠ちゃんに触れたいし触れられたい。だから…して?」 今度は悠ちゃんが真っ赤になって、僕の髪の毛に鼻先を埋めた。 「はあ…っ、おまえ、見た目は天使なのに小悪魔みたいなことを言う。あのな、俺は今まで我慢してきた分、滅茶苦茶だぞ?止まんねぇぞ?嫌だと泣いても離さねぇぞ?ホント、わかってんのか?」 「うん…。悠ちゃんもわかってる?僕だって、悠ちゃんに触れたいのを我慢してたんだよ?僕だって悠ちゃんのこと、滅茶苦茶にしちゃうんだから…」 「あ〜…マジ勘弁して。可愛すぎだろ…」 悠ちゃんが、僕の髪の毛に顔を突っ込んでブツブツと呟いた後、顔を上げて言った。 「とりあえず今日は熱があるから、大人しく寝ろ。それで早く治せ。熱が下がったら覚悟しろよ」 「うん。悠ちゃん、ずっと傍にいる?」 「ああ、いるよ」 「よかったぁ…。おやすみなさい…」 「おやすみ、玲」 悠ちゃんの優しい声を聞いて悠ちゃんの体温と匂いに包まれていると、すぐに眠気がやってきて、僕は熱でしんどいはずなのに、とても幸せな気分で眠りについた。

ともだちにシェアしよう!