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第67話 屋烏乃愛

悠ちゃんが、「玲?どうした?」と僕の顔を覗き込んでくる。僕は泣き笑いの変な顔で、悠ちゃんを見上げた。 「あ、あのね…、僕の初めてのキスが、悠ちゃんで良かった…って、嬉しかったんだ。ずっと、違うと思ってたから…」 「はっ?ちょっと待て。どういうことだ?おまえ、他の奴とキスしたことあるのか?」 低くトーンの下がった悠ちゃんの声に、僕の肩がビクリと揺れる。 「…中三の時にね、ずっと仲良かった友達の家に遊びに行ったんだ。その時にね…今まで優しかった友達が、急に僕のこと好きだとか言い出して、抱きしめられてキスされた…。僕、そんなのは悠ちゃん以外となんてしたくなかったから、メチャクチャ泣いて暴れた…。そしたら、僕の足がその子のお腹に当たったみたいで、お腹を抑えて離れたから必死で逃げ帰ったの。すごく気持ち悪くて悲しくて…、家に帰ってすぐにトイレで吐いた。何度も何度も口を洗って…。皮が剥けて血が滲むまで洗ったけど、ずっと気持ち悪かった。僕ね、悠ちゃんに助けて欲しくて…、れ、連絡したかった。でも、こんな話されても迷惑かな…って、連絡…出来なか…っ」 話してるうちに当時の怖かったことを思い出して、僕はカタカタと震え涙を流した。 悠ちゃんが、僕の背中にしっかりと腕を回し、強く抱きしめる。そして、泣きじゃくる僕の髪に鼻先を埋めて、優しく名前を呼んだ。 「玲…辛いことを思い出させてごめん。その時、俺が傍にいてやらなくてごめん。おまえが、度々そういう好意の目で見られてることを知ってて、離れた俺が悪い。今、こんなに後悔するなら、ちゃんと傍にいてやれば良かった。玲、おまえの初めてのキスの相手は俺だ。おまえがキスしたことがあるのは、俺だけだ。そんな奴のキスは、カウントしなくていい。すぐ忘れろ。俺が、これからもいっぱいキスをして、そんなのはなかったことにしてやる…」 「ゆっ、悠ちゃん…っ、ご、ごめんね…」 「バカ…、なんでおまえが謝ってるんだよ。俺、早とちりしてイラッとして…。怖かったよな?俺はおまえには何も怒ってない。怒ってるとしたら、玲に手を出したそいつにだっ。ちっ!そいつに会ったら絶対にぶん殴ってやる…」 「ぼ、暴力はダメだよ…?それに、僕がお腹を蹴っちゃってるし…」 「でも、おまえをこんなにも苦しめてるじゃねぇか」 「悠ちゃん…が、いっぱいギュッてして、キスしてくれたら、元気になる…」 「そんなの、頼まれなくても俺がしたいから、いっぱいする。ふ〜…、おまえはモテるから心配だな。俺がきっちりガードしないとな…」 「え…?モテるのは悠ちゃんじゃん…。この前も綺麗な女の人と…」 この前の、女の人と腕を組む悠ちゃんを思い出して、せっかく止まっていた涙がまた溢れ出した。 「玲…あの時はごめんな。あんな奴、俺は何とも思ってないから。あ〜、この際だから全部白状するわ。俺は、キスもセックスも、玲が初めてだ。ていうか、昨日玲としたのが初体験だ。それまで誰ともしたことねぇ。女と遊びまくってるって噂されてる俺は、一昨日まで童貞だったんだ。な?どうだ。安心したか?」 僕は驚いて、涙が止まるどころか声を上げて泣き出した。 「ふ、うわぁん…っ!ほ、ほんとっ…に?よ、良かった…ぁ。僕…ずっとっ、悠ちゃんが女の人と遊んでるって噂を聞くの…嫌だったんだ…、苦しかったんだ…。ふうっ、でも、悠ちゃんは…モテるし仕方ない…って、思って…っ。うっ、ぐすっ、悠ちゃん…悠ちゃん…っ、大好き…っ」 「ホント泣き虫。可愛い顔がぐしゃぐしゃだな。ふっ、でも、おまえはどんな顔してても、愛しいよ…」 悠ちゃんが、あやすように僕の背中を何度も撫でる。僕は、悠ちゃんの胸に顔を擦り寄せて、悠ちゃんの服を涙と鼻水で濡らしていった。

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