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第69話 寤寐思服(ごびしふく)

僕は電車の扉に背中をつけて、そっと前に目を向けた。左側を見ると、悠ちゃんが目を細めて僕を見ている。視線を右側にずらすと、拓真が少し怖い顔で、僕をジッと見ている。 二人に見つめられて、困った僕が俯いた瞬間、電車がガタリと揺れ、思わず身体が傾いた。 即座に二人にそれぞれの腕を掴まれて、身体を起こされる。 「あ、ありがと…、悠ちゃん、拓真…」 「玲、また揺れるかもしれないから、俺に寄りかかってろ」 「そっちに凭れてると、揺れた時に扉にぶつかりそうだよ。玲、俺に掴まってなよ」 「……え…」 二人が、僕の腕を掴んでる手に力を込めて、睨み合い出した。僕を心配してくれるのは嬉しいけれど、怖い顔をするのはやめて欲しい。 それに、僕は悠ちゃんも拓真も好きだから、好きな二人には仲良くして欲しいんだ。 きょろきょろと二人を見ていたけど、掴まれている腕がだんだんと痛くなってきて、僕は「腕が痛い…」と二人に訴えた。 途端に二人が慌てて掴んでいた手を離す。 悠ちゃんが、僕の頭に手を置いて、眉尻を下げて謝ってきた。 「玲…ごめんな。思わずムキになって力が入っちまった。赤くなってないかな…。それに、気分はどうだ?」 「大丈夫だよ。ちょっと痛かっただけ。気分も悪くなってないよ。だって…今日は悠ちゃんが一緒だから…」 言ってて照れてしまい、最後の方が小さくなる。でも、ちゃんと聞き取ってくれた悠ちゃんが、とても優しく笑って僕の頰をスルリと撫でた。 僕も悠ちゃんに笑い返していると、拓真の低い声が聞こえてきた。 「お兄さん、なんで今日は玲と一緒にいるんですか?いつも離れてたじゃないですか」 「あ?そんなの俺の勝手だろうが。玲は昨日まで熱があったんだ。心配だから、俺が傍についてるんだよ」 「玲の傍には俺がいますから、大丈夫ですよ。でもまあ…仕方ない…。学校に着くまではついて来てもいいです。でも、学校内では俺が見てますから、教室まで来たりしないで下さいね?」 「はあ?なんでおまえに指図されなきゃなんないんだよ…っ」 「ち、ちょっと…やめてよ。僕、好きな二人には仲良くして欲しいと思ってるのに…。そんな怖い顔して大きな声を出さないでよ…」 僕の言葉に、二人は言い合いをやめてソッポを向く。僕が小さく溜め息を吐いて俯いていると、左手が少し冷んやりとした大きな手に包まれた。一気に僕のテンションが上がって悠ちゃんを見る。悠ちゃんは、まだソッポを向いたまま車窓の外を見ていたけど、僕の手をしっかりと強く握りしめてくれて、その手の感触がとても心地良かった。 ✼寤寐思服ー寝ても覚めてもあなたをずっと思ってるという意味。

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