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第71話 寤寐思服

翌日の放課後、教室まで迎えに来てくれた悠ちゃんと並んで学校を出た。 結局、朝は駅まで悠ちゃんと一緒に行って、そこからは以前のように、拓真と電車に乗ることにした。 拓真と悠ちゃんに挟まれて、僕が疲れるだろうからって、悠ちゃんがそうするように決めたんだ。その代わり、帰りは必ず悠ちゃんと一緒に帰ることになった。 教室を出る時に、僕は拓真に声をかけて手を振った。拓真は、僕に笑って手を振り返してくれたけど、悠ちゃんをギロリと睨んだように思う。 ーーなんで悠ちゃんをあんな目で見るんだろ?僕の知らないところで、二人の間に何かあったのかなぁ? 駅に向かって歩きながら、隣を歩く悠ちゃんを見上げて首をひねる。 僕の視線に気づいた悠ちゃんが、目を細めて僕の手を握りしめた。 「あっ、ゆ…ちゃん、ここ外だよ?誰かに見られちゃう…」 「そうだな。見られるかもな。でも、今から人の多い電車に乗って街中を歩くんだ。玲が迷子になったら大変だろ?」 「ぼ、僕っ、迷子にならないよ…っ」 「そっか。じゃあ手は繋がなくていっか…」 悠ちゃんの手が、スルリと僕の手から離れていく。 「あっ!待ってっ!やだ…っ。ほんとは手、繋ぎたい…。悠ちゃん…離さないで。僕を、掴まえてて…」 俯いて呟く僕の頭上で、クスリと笑う声がする。 「あ〜マジ可愛い。たまんねぇわ。玲、俺が言った言葉を忘れんな。俺は、おまえを絶対に離さないと言ったぞ。誰に見られようがどう思われようが関係ねぇ。この手は離さない」 僕の頰に手を当てて、真正面から見つめて言う。単純な僕は、悠ちゃんの言葉一つで飛び上がるくらいに嬉しくなって、涙が浮かんだ瞳を悠ちゃんに向けて、力強く頷いた。 病院に着いて、少し待ってから担当医に額の傷を診てもらった。 「綺麗に治ってるね。もう薬も塗らなくていいけど、痒くなっても強くかいたりしないでね」 「はい。ありがとうございました…」 「あの先生、ここ、薄くピンク色になってるじゃないですか?これも綺麗に消えますか?」 挨拶をして席を立とうとすると、悠ちゃんが僕の額に触れて、先生に尋ねた。 「うん、消えるよ。ただ、時間がかかるかもしれないけど…」 「…わかりました。ありがとうございました。失礼します」 悠ちゃんが椅子から立ち上がったので、僕も慌てて立ち上がる。二人で頭を下げて、診察室を出た。 すぐ後に看護師が出て来て、「今日は薬もないから帰っていい」と言う。悠ちゃんは看護師にもお礼を言うと、僕の腕を引いて歩き出した。病院の入り口とは違う方向に向かうのを不思議に思ってついて行くと、個室トイレの中に連れ込まれた。

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