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第72話 寤寐思服
どうしたんだろうと不思議に思い、悠ちゃんを見上げる。すると、悠ちゃんが僕の前髪を上げて額の傷痕にキスをした。そして、僕の頭を抱き寄せて「よかった…」と掠れた声で囁いた。
僕は、僕よりも僕のことを心配してくれる悠ちゃんに、胸がキュウッと締めつけられて、とても愛おしくなった。そして僕も強く抱き返すと、悠ちゃんの胸に顔を擦り寄せた。
病院の帰りにスーパーに寄って、週末の食材を買い込む。ついでにレンタルビデオ屋にも寄って、何枚かの映画のDVDを借りることにした。
週末はどこにも行かないで、二人でのんびりまったりと過ごす予定だ。
当然、僕は悠ちゃんに触れてもらうことも期待している。
悠ちゃんは、前に自分が貪欲で汚いと言ったけど、やっぱり僕の方が貪欲だと思う。悠ちゃんと繋がってから、もっと、と悠ちゃんを求めて止まない。早く悠ちゃんを感じたくて堪らないんだ。
そんなことを思っていると、ふと、あの時の悠ちゃんの熱を思い出してしまい、顔を熱くする。僕は悠ちゃんに気づかれないように、頰に手を当てて熱を冷まそうとした。
俯いた僕の頭に大きな手が乗せられる。
「玲、どうした?しんどくなったのか?」
会計を済ませた悠ちゃんが、カウンターから少し離れた場所で待っていた僕の前に立って、心配そうに僕を見る。僕は両手を頰に当てたまま、慌てて首を横に振った。
「ちがっ、違うよ?全然元気だよっ。ちょっと、今日は暑いなぁと思って…」
「そうか?曇ってて少し肌寒くねーか?やっぱ熱があるんじゃ…」
「だだ、だ、いじょぶ!早く帰って、ご飯食べてゆっくりしよ?」
僕は熱くなった顔を見られないように、悠ちゃんの制服のシャツの袖を掴むと、引っ張るようにして悠ちゃんの前を歩き出した。
家に着く頃には顔の熱も引いたようで、僕はほうっ…と息を吐いて悠ちゃんを見た。悠ちゃんも僕をジーッと見つめていて、思わずドキンと心臓が跳ねる。ドキドキとして目を泳がす僕を、悠ちゃんが静かに呼んだ。
「玲、そっちの荷物、持ってやるからこの手を離そうか。後でいっぱい手を繋いでやるから、ちょっと我慢な。…おまえはいちいち行動が可愛いよな…」
「あっ、ご、ごめんっ。でも、重たい方を持ってもらってるし、これくらい持てるよ。そ、それに…手は…、繋ぎたい…から、いっぱいしてね…?」
「…おま…、言い方…。まさか、おまえのクラスのあいつにもそんな風な態度を取ってんじゃねえだろうな…」
「え?拓真のこと?普通だよ?」
「はぁ…、マジ気をつけないと危ねぇな…」
悠ちゃんはブツブツと呟きながら、袖を掴んでいた僕の手を強く握りしめてくれた。そして、そのまま僕の手を引いて、マンションのエントランスに入って行った。
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