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第80話 寤寐思服

木曜日になり、拓真と一緒に拓真の家に向かった。 悠ちゃんは、涼さんと駅前で時間を潰して待っててくれるらしい。「涼さんに悪いよ」と僕が言うと、「あいつは本屋があれば、一時間でも二時間でも時間を潰せるからいいんだ」と、呆れたように言っていた。 そういえば、前に街中で会った時にも、本屋に行って分厚そうな本を買っていたし、かなり本が好きなんだなぁ、と思った。どんな本を読むのか聞いて見たい…とぼんやり考えいるうちに、拓真の家に着いていて、拓真が心配そうに僕を覗き込んでいた。 「玲、着いたよ。ぼーっとしてたけど大丈夫?」 「う、うん。大丈夫。拓真ん家久しぶりだねっ。お邪魔しまーす」 「おう」 玄関ドアを開けて、僕の背中を押す拓真に促されて中へ入る。話し声が聞こえたからか、玄関横のドアが開いて、拓真のお母さんが出て来た。 「玲くん、いらっしゃい。おばさん、玲くんに会いたくてずっと待ってたのよ。ささ、早く上がって」 「こんにちは。じゃあ…失礼します」 「ふふっ、いい子ねぇ」 にこにこと笑って、おばさんが僕の腕を引いてリビングに連れて行く。中に入るといい匂いがして、テーブルの上にはふわふわのシフォンケーキが置かれていた。 「うわぁっ!すごいっ。美味しそうっ」 「でしょ?早く食べて。玲くん、紅茶でいい?」 「はいっ、ありがとうございます。あ、でも先に手を洗って来ていいですか?」 「あっ、そうね。ふふ、じゃあ洗って来て。拓真もよ」 「わかってるよ」 洗面所で手を洗っていると、鏡越しに拓真の不貞腐れた顔が見えた。 「拓真、どうしたの?」 「…玲、早く食べて俺の部屋に行こうぜ。俺が玲と話したいのに、母さんばっか玲を独り占めしてさ…」 「なぁに?拗ねてるの?ふふ、拓真可愛いね。でも僕、母さんがいないから、おばさんと話してると、なんだか懐かしくて嬉しいんだ…。だからちょっとだけ話してもいい?」 鏡に映る拓真を見上げてお願いをする。 拓真は小さく溜め息を吐くと、ニコリと笑って僕の頭を撫でた。 「仕方ない。でもちょっとだけだぞ?俺だって玲と二人で話したいんだからさ」 「うん、わかった。じゃあ早くシフォンケーキ食べに行こっ」 僕は早くケーキを口にしたくて、手を洗う拓真を急かすと、拓真の手を掴んで急いでリビングに戻った。

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