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第83話 寤寐思服
拓真から離れようと、僕のお腹に回された腕を掴む。だけど、僕が外そうとすればするほど、拓真は強く抱きしめてくる。
「や…っ、拓真、離してっ」
「嫌だ。玲、ちゃんと答えて。玲には、こういうのをつけ合う相手がいるのか?」
悠ちゃんとのことを、知られたら困る。だけど、恋人はいない、というウソはつきたくなくて、僕は小さく頷いた。
「いる…。僕はその人が好き。その人も僕のこと、好きだと言ってくれる。ね…、ちゃんと言ったよ?離して」
「誰?俺の知ってる人?まさか…悠希さんじゃ…」
拓真の口から悠ちゃんの名前が出た瞬間、僕はごまかしきれないほどに、大きく肩を跳ねさせてしまった。
拓真が僕の肩に顔を埋めて、耳の側で苦しげに声を絞り出す。
「マジかよ…っ。玲、おまえ…まさか無理矢理されたのかっ?」
「ち、違うっ!僕と…ゆ、うちゃんは、ちゃんと愛し合ってる…っ。お互い、ずっと好きだったんだ。それに、拓真には言ってなかったけど、僕たち、血は繋がってないんだよ。親が再婚したから、兄弟だけど、兄弟じゃない。あ…でも、男同士だから、気持ち悪い…?」
お腹に回された拓真の腕が解けて、僕はホッと安堵の息を吐いた。
拓真に向き合って話そうとした僕の腕を掴み、拓真が僕をすぐ近くにある公園へと引っ張って行く。僕の顔が痛みで歪むほど強く腕を掴まれて、公園の木の陰へと連れて来られた。
拓真がクルリと僕に向き直り、僕の両肩を強く掴む。息がかかるくらいに顔を近づけて、低い声を出した。
「玲、悠希さんと血が繋がってないって?でも、ずっと家族として暮らしてきたんだろ?それはもう、兄弟だ。玲は、身近で優しくしてくれた悠希さんを、兄弟の好きを勘違いしてるんだ。なぁ、目を覚ませよ。現実を見ろよ。玲を真剣に好きなのは誰だ?」
「な、なに言ってるの?ちゃんとどういう意味の好きか、わかってる。それに、僕は兄弟だと思ってた頃から、悠ちゃんが好きだったんだ。兄弟の好きじゃなく恋愛の好きとして…。僕はちゃんと現実を見てる。僕を真剣に愛してくれてるのは、悠ちゃんだよっ」
「玲っ!なんでだよっ!兄弟なんておかしいだろ?俺を見ろよっ。俺は…っ、おまえのことがっ、好きなんだっ!」
「え?」
突然の拓真の告白に、僕の思考が一瞬止まる。
その隙に拓真の顔が僕に被さり、唇に柔らかいものが押し当てられた。
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