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第86話 寤寐思服

悠ちゃんの顔を見てから、ずっと涙が止まらない。僕の涙で、悠ちゃんの制服の肩の部分が、濡れて黒くシミになっていた。 家に着いて玄関の中に入ると、僕は「降りる…」と言って、悠ちゃんの背中から降ろしてもらった。そして、急いで洗面所に向かう。後ろから「玲っ」と悠ちゃんが呼ぶけど、「早くきれいにしなくちゃ」と、振り向かずに洗面所に入った。 蛇口を上げて、勢いよく水を出す。両手で水をすくって口を洗う。ゴシゴシと擦って何度もうがいをするけど、ちっとも気持ち悪さが無くならない。 僕は洗面所の床にうずくまって、泣きながらタオルで口元を擦り続けた。 でも、すぐに後ろから抱きしめられて、タオルを取り上げられてしまう。 「あっ!だめっ、返して…、もっと拭かないと、全然取れない…っ」 「玲っ!これ以上擦ると傷つくからダメだ。俺が治してやるからっ。だから、無茶はするな」 「だってっ!僕…っ、キ、キスされた…。気をつけるように言われてたのにっ、逃げれなかった…。ご、ごめんね、悠ちゃん…っ。僕のこと、気持ち悪い?き、嫌いになるっ?」 「ならねぇよ!第一、おまえ、抵抗したんだろ?だから殴られたんだろ?これ…かなり痛そうだしさ。ちっ、あのクソ野郎がっ…玲に手を上げやがって…っ!玲…俺が全部治してやる。痛いのも気持ち悪いのも全部だ」 悠ちゃんはそう言って、僕を抱き上げて部屋に行き、ベッドに寝かせた。 悠ちゃんもベッドに上がってきて僕の上に被さり、包み込むように抱きしめてくれる。 「玲、目を開けて、おまえに触れてるのが誰なのか、ちゃんと見ておけよ」 間近で僕を見つめて囁くと、ゆっくりと唇を合わせた。チュッチュと啄んでから、ペロリと舐める。熱い舌が口内に入ってきて、僕の舌に優しく触れた。 「ふぁ…、ふぅっ、ん…っ」 悠ちゃんから与えられる甘いキスに、僕の瞼がトロリと落ちる。途端に悠ちゃんが、僕の舌をキュッと噛んで囁いた。 「ほら、玲、目を閉じるな…俺を見ろ」 「んぅ…、見てる、から…ぁ。まだ、気持ち悪いの、無くならない…。ゆうちゃ…もっとして…、おねがい…っ」 唇を触れ合わせたまま、悠ちゃんに命令される。僕は悠ちゃんの首に腕を絡めて、甘い声で続きをねだった。

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