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第90話 寤寐思服

早々に晩ご飯を作り終えてのんびりとしていると、学校が終わって一時間もしないうちに、悠ちゃんが帰って来た。僕は玄関まで走って行って、悠ちゃんが玄関ドアを開けたと同時に飛びついた。 「悠ちゃんっ、おかえり」 「ああ、ただいま。どうしたんだ?」 よろけながらもしっかりと僕を抱きとめた悠ちゃんが、僕にキスをして聞いてきた。 「やっぱり一人でいるの、寂しかった。悠ちゃんに会いたかった」 「ふ…そうか。俺も寂しかったよ」 靴を脱いだ悠ちゃんと手を繋いでリビングに入る。リビングに充満する匂いに気づいて、悠ちゃんが驚いた顔をした。 「もう晩飯作ったのか?美味そうな匂いがする…」 「うん、暇だったから。悠ちゃん、着替えて手を洗って来てよ。早く食べてゆっくりしよ?」 「ん、わかった」 悠ちゃんがリビングを出て行き、戻って来るまでの間に、テーブルに料理を並べる。 すぐに着替えを済ませて戻って来た悠ちゃんと、二人並んで手を合わせて食べ始めた。 今日は、サーモンと野菜のホイル焼きとカボチャのスープ、ポテトサラダとご飯だ。僕と想いが通じてからは、悠ちゃんはいつも美味しいと言って食べてくれる。以前も、『悠ちゃんが食べてくれるかも』と思うだけで、料理を作るのが楽しかったけど、今は言葉に出して言ってくれるから、もっと楽しくなった。 いつものように悠ちゃんが早く食べ終わって、先にお風呂に入ってもらう。その間に僕も食べ終わって、食器を食洗機に並べていく。フライパンと鍋を洗い終わった頃に悠ちゃんがお風呂から出て来た。すぐに僕も悠ちゃんの後に続いて、お風呂に入った。 お風呂から出て、ドライヤーを持ってリビングに戻る。ソファーに座る悠ちゃんの前に立つと、悠ちゃんがドライヤーを取って、僕を悠ちゃんの足の間に挟むようにして、床に座らせた。そして、ドライヤーをコンセントに挿すと、僕の髪を優しく梳きながら乾かしていく。 悠ちゃんは、自分の髪の毛は軽く拭くだけなのに、いつも僕の髪の毛を丁寧に乾かしてくれる。 時間をかけて乾かすと、ドライヤーを横に置いて、僕の脇を抱え上げ、自分の膝の上に座らせた。そして、後ろから僕を抱きしめて、頰に唇を寄せる。 僕はくすぐったくて、クスクスと笑いながら首を竦めた。 「玲、もう大丈夫か?ここ痛くないか?」 悠ちゃんが、拓真に殴られた僕の頰に唇をつけて聞く。 「うん、もう全然大丈夫。悠ちゃん…心配かけてごめんね。僕は元気だよ」 「月曜にあいつに会うけど、ホントに大丈夫か?」 「あ、それなんだけどね、今日拓真に会ったよ」 「はあっ⁉︎なんでっ?あいつ、家に来たのかっ?」 「あ、あのっ、えと…ね、」 家を出るなと言われてたのに、コンビニに行ったことを言うと怒られるっ、とシドロモドロになる。でも、ウソはつきたくないから、僕のお腹に回された悠ちゃんの腕を握って、正直に話した。 「昼から晩ご飯の準備をしてたんだけど、塩コショウがないことに気づいて…。すぐそこだし、と思ってコンビニに行ったの。コンビニから帰って来たら、マンションの前に拓真が立ってて…。で、でもっ、何もされてないよ?拓真、僕にずっと謝ってた」 「んなのっ、当たり前だろーがっ!ちっ、あいつ…、俺がいない時を狙って来やがったな」 「それでね、もう僕が怖がることや嫌がることは絶対にしないから、また友達になりたいって。二度と僕を泣かせないって。だから、もう大丈夫だよ」 「はあっ?あいつ何勝手なこと言ってんだ。玲にひどいことをしておきながら…っ。おまえ…まさか、許したんじゃないだろうな?」

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