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第93話 愛月徹灯(あいげつてっとう)

月曜の朝、駅で会った拓真は、いつもと変わらない笑顔で僕を待っていた。ただ、悠ちゃんにきつく睨まれて、少し挙動がおかしかった。それに、なるべく僕に触れないように気を遣っているようだった。 電車に乗ると、悠ちゃんは少し離れて立った。代わりに拓真が、満員の人に僕が押し潰されないように、空間を作ってくれる。拓真にお礼を言って電車に揺られていると、いきなりガタンッと車両が大きく揺れて僕の身体が傾いた。咄嗟に拓真が支えてくれたのだけど、すぐに慌てて手を離してしまう。 その手を見て、『少しくらい触れても大丈夫なのに…』と思ったけど、僕がそう言ってしまうと、また拓真を惑わせてしまうのかもしれない。だから「ごめん」と謝る拓真に、笑って頷くだけにした。 二、三日はお互いが少しぎこちなかったけど、すぐにいつもの調子に戻って楽しく過ごせるようになった。 やっぱり拓真は、僕には大事な友達だ。だけど、それ以上は決してない。 拓真は一年の中でも目立つ方だから、入学してからすでに数人から告白されている。 ーー早く拓真に可愛い彼女でも出来れば、僕が彼女との惚気話でも聞いてからかったりして、もっと楽しいのに。 拓真の気持ちを聞いておきながら、そんな風に考える僕は、冷たいだろうか。結局僕は、悠ちゃんのことしか考えられないんだ。 ーー拓真、僕はホントは優しくなんかないんだよ。僕は、悠ちゃんさえ傍にいればそれでいいんだよ。早く、僕のことなんて忘れて、可愛い人を探して。拓真のことを大事に想ってくれる人を…。 自分勝手な願いを胸に秘めて、日々を拓真と過ごし、高校に入ってからの初めての夏休みが来た。 悠ちゃんと、二人きりで濃密に過ごした、最初で最後の夏休みがーー。 愛月徹灯*大切にして可愛がる様が、極めて激しいこと。

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