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第94話 愛月徹灯
夏休みに入ってすぐに、涼さんが家に遊びに来た。
「暑いからこんな軽装でごめんね」と謝る涼さんだけど、白のTシャツに紺のカプリパンツ姿は、やっぱりモデルみたいにカッコいい。
グレーのTシャツにハーフパンツの悠ちゃんも、涼さんに負けないくらい、カッコいい。
涼さんが、手土産に持って来てくれたチーズケーキを一口、口に入れて、ぼんやりと二人を交互に見ていたら、涼さんに笑われてしまった。
「くくっ、ふ…っ、玲くん、ホントに可愛いねぇ。悠希にはいいけど、俺をそんな目で見ちゃダメだよ?」
「えっ?あ…、ごめんなさい…っ。僕、感じ悪かった?」
「違う違う。俺の自惚れかもしれないけど、ちょっとカッコいいな〜とか思ってくれてたでしょ?」
「はいっ。涼さんはどんな格好でもモデルみたいでカッコいいなぁ…って。僕、羨ましい…ふぅっ?」
僕が話していると、唐突に隣に座る悠ちゃんにほっぺを挟まれて、タコみたいな口になった上に、変な声まで出てしまった。
慌てて悠ちゃんの腕を掴むけど、ちっとも離してくれない。
「ふ…ゆうひゃん…。いひゃい…、はにゃひて…」
「ふ…、何、その面白可愛いの…」
悠ちゃんが、ふ…と破顔すると、僕の尖った唇に、チュッと音を立てて口づけた。
僕はたちまち顔を熱くして、フルフルと震え出す。涙目で悠ちゃんを睨む僕を見て、やっと悠ちゃんが、顔から手を離してくれた。
「悠ちゃんひどい…。涼さんの前でチューした…」
「おまえが涼を褒めたからお仕置き。なぁ、玲。俺は?カッコよくない?」
「ゆ、悠ちゃんが一番カッコいいに決まってるよ!でも、涼さんもカッコいいんだもん…。二人とも、僕と違って男らしくて綺麗なんだもん…。僕も身長と筋肉がほしい…」
「はぁ?おまえ…わかってないなぁ。おまえは俺や涼なんかよりも、ぜんっぜん!綺麗なんだぜ?俺がおまえを好きなんだから、もっと自分に自信を持て」
「え…ホント?僕を綺麗と思ってくれるの?」
「ああ、おまえは世界一綺麗だ」
「悠ちゃん…っ」
「んっ、コホンっ!…もういいかな?君たち、俺を忘れてイチャイチャし過ぎ。玲くんが俺を褒めてくれたのは嬉しいけど、悠希…、『涼なんか』ってヒドくない?俺を邪険に扱うと、連れて行ってやらないよ?」
気がつくと僕は、悠ちゃんの膝の上に乗せられていて、慌てて降りようとする。だけど、悠ちゃんが僕の腰に腕を巻きつけて引き寄せたから、ますます密着してしまった。
「連れて行くって何だよ?」
悠ちゃんが、僕を抱きしめたまま尋ねる。
僕も不思議に思って、横向きに座っている身体を少し涼さんに向けて、首を傾げた。
「あれ?そのままくっついてるの?はぁ…、もういいわ…。あのさ、蓼科に俺ん家の別荘があるんだよ。悠希は去年行っただろ?今年も二週間ほど、遊びに行かないか?もちろん、玲くんも一緒に。なんだったら玲くんの友達も呼んでいいよ?ね、皆んなで行こうよ。景色もいいし涼しいし、勉強も捗るし?」
「えっ、別荘?涼さん家、別荘を持ってるんですかっ?すごいっ!行きたいですっ。ね、悠ちゃん、行こ?僕、景色の綺麗な所を、悠ちゃんと歩きたいっ」
興奮して、ギュウギュウと悠ちゃんの首にしがみつく。悠ちゃんは、困った顔をしながらも、優しい声で「いいよ、行こうか」と言ってくれた。
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