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第95話 愛月徹灯

特急を茅野駅で降りて、そこからタクシーで涼さん家の別荘に向かう。 タクシーの前の席に涼さんが座り、後ろに悠ちゃん、僕、拓真と並んで座った。 高校最初の夏休みを友達と遊んで過ごしたい、という僕の願いを悠ちゃんが渋々聞き入れてくれて、拓真も誘って四人で行くことになった。 「俺がずっと見張っててやる」と言ってた通り、悠ちゃんが、特急に乗ってすぐから拓真をジーっと見つめていて、緊張で固まる拓真が可哀想だった。 タクシーに乗ってからも、僕の顔越しに拓真を睨むから、なんだか僕まで落ち着かない。僕が、悠ちゃんの膝に置かれた手を握ると、少し驚いた顔をした後に、ふ、と笑って、やっと拓真を睨むのをやめた。 涼さん家の別荘は、高い白樺の木に囲まれた中にあった。最近塗り直されたという外壁は真っ白で、とても綺麗だ。少し高い位置にある玄関を、階段を登って入る。一階は広い玄関にリビングとキッチンと洗面所、お風呂、トイレがある。二階には三つ部屋があって、端にある一番大きな部屋を、悠ちゃんと僕で使っていいと、涼さんが言ってくれた。 各自部屋に荷物を置いて、一階に降りる。別荘の中は綺麗に掃除されていて、冷蔵庫の中には、たっぷりと食材が詰め込まれていた。 別荘の近くに住む人に管理を任せていて、連絡を入れると、快適に過ごせるように準備をしてくれるそうだ。 リビングにあるソファーに座って、冷たいお茶とお菓子を食べながら、涼さんから別荘の説明を受ける。 ソファーは、二人掛けと三人掛けがコの字型に並べて置かれている。二人掛けに僕と悠ちゃんが、三人掛けに涼さんと拓真が座り、しばらく談笑していた。 「今日は移動で疲れたし、この別荘の周りを散策するだけにしようか」 「あ、いいですね。僕、こういう森とか好きなんです」 涼さんの提案に、即座に僕が同意して、皆んなで散策に行くことになった。 涼さんと拓真が先を歩き、僕は悠ちゃんと並んでゆっくりと進む。 僕は、こういう綺麗な景色の中を歩くのが好き。好きな人と歩くのは、もっと好き。でも、出来れば…。 僕がチラチラと悠ちゃんの手を見ていたら、悠ちゃんが、ふっ、と笑って、僕の手を強く握りしめた。 「あ…」 「繋ぎたかったんだろ?玲、俺にして欲しいことは、遠慮なく言え」 「うん…ありがと。でも、涼さんと拓真に見られちゃうよ…?」 「いいんじゃね?あいつらは、俺と玲の関係を知ってるんだし」 「そっか…。じゃあ、ずっと繋いでてね」 「ああ。玲…」 「なぁに?」 悠ちゃんに名前を呼ばれて顔を上げる。突然、僕の唇に柔らかいものが押し当てられて、すぐに離れた。 僕は、ポッと顔を熱くして、繋いでない方の手で唇を押さえる。 ーー悠ちゃんっ、二人がいるのにチュウした…っ。 恥ずかしいのと、それ以上に嬉しいのとで、僕はプルプルと震えた。 そんな僕の反応を見て、悠ちゃんが、くっく…と楽しそうに笑った。

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