97 / 141
第98話 愛月徹灯
拓真から話を聞いて、悠ちゃんはかなり渋い顔をしてたけど、涼さんに何か言われて、渋々頷いた。
拓真が僕の元へ走って来て、「許可もらったよ」と笑顔を見せる。
僕は立ち上がり、悠ちゃんに向かって「じゃあ行ってくるね」と手を振った。悠ちゃんも「気をつけろよっ」と言って、手を振り返してくれた。
テニスコートを出て、雑木林の中の細い道を並んで歩く。木々の間をすり抜けて吹いてくる風が、運動をして熱くなった身体を冷ましてくれて、とても心地いい。
ゆっくりと歩きながら、拓真が大きく伸びをした。
「う〜ん、気持ちいいなぁ。暑いのは暑いけど、蒸し蒸ししてなくて過ごしやすいよな?」
「うん、風が気持ちいいもんね。課題も捗るよね」
「あ、それだけどさ…、課題多いと思わん?俺、全然進んでないんだよな〜」
「そうかな?僕、もう半分終わったよ?」
「えっ!マジですか…っ」
とても驚いた様子の拓真が、足を止めてジーッと僕を見つめる。
「…な、なに?」
「玲…、いや、玲様、どうか少しだけ写させて下さい」
僕がたじろいで少し身を引くと、拓真が深く頭を下げた。
「お願いしますっ」
「え〜…、自分でやんないと覚えないよ?」
「やる!半分はやるからっ」
「もぉ〜。どうしてもの時は見せてあげるから、なるべく自分で頑張って」
「はい…。玲センセーは厳しいな…」
ポツリと呟く拓真に、「うん、玲センセーは厳しいよ?」と笑って前を向くと、少し先にキラキラと輝く湖面が見えた。
僕は小さく歓声を上げて、湖に向かって駆け出す。すぐに辿り着いたそこは、そんなに大きくはないけど、水が澄んで、太陽の光に反射した湖面がキラキラと輝いていた。
「うわぁ…」
「玲っ、急に走るなよっ。危ないだろ?」
「子供じゃないんだから、大丈夫だよ。それより見てっ。すごく綺麗…」
僕の視線につられて、拓真が前を向く。「ああ、ホントだな」と呟く拓真に、僕は「ね?」と振り向いて微笑んだ。
ともだちにシェアしよう!