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第100話 愛月徹灯
「どうしたの?」
拓真が何に怒っているのかわからなくて、小さく首を傾げる。拓真は、男の人が去った方を指し示して、低い声を出した。
「あいつ誰?同じマンションて?」
「うん、あの人ね、どこかで見たことあるなぁ…て思ってたら、マンションで会った人だった。僕と同じマンションに住んでるみたいだね。向こうも僕のこと覚えてて、しかもこんな所で会うなんて、びっくりだよ」
「なんか…あいつの玲を見る目が気にくわない」
「え?何言ってるの。別に普通だったよ?それよりそろそろ戻ろうよ。もうテニスも終わってると思う」
「…そうだな。戻るか」
拓真は、まだ納得しかねる様子だったけど、僕が歩き出すと何も言わずについて来た。
テニスコートに戻ると、ちょうど悠ちゃんと涼さんが片付けを終えたところだった。
別荘に帰って、順番にシャワーを浴びる。皆んなが強く勧めるから、一番汗をかいていない僕が最初にシャワーを浴びた。後の三人が順番に入っている間にそうめんを茹でて、トッピングに錦糸卵とハム、焼きナスを添えて、テーブルに並べた。
またもや茹でただけなのに、皆んなに「美味いっ」と言ってもらい、はにかみながら食べた。
後片付けをした後は、少し休憩してから皆んなで課題をやった。わからない箇所で手が止まると、悠ちゃんや涼さんが教えてくれる。二人ともスポーツだけでなく勉強も出来るみたいで、とてもわかりやすくてサクサクと進んだ。
拓真も涼さんに教えてもらって、随分と進めたようだった。
区切りのいいところで課題を終わらせて、今夜のバーベキューの準備に取り掛かる。
僕たちがテニスをしていた間に、冷蔵庫には、新たに国産牛肉や豚肉、野菜や飲み物が目一杯補充されていた。
バーベキューコンロやテーブル、イスも庭にセットされていて、後は炭をおこして野菜を切ればいいだけだ。
悠ちゃんと涼さんが火をつけている間に、僕と拓真で野菜を切って準備をした。
切った野菜や肉、飲み物をリビングの大きな窓から続くウッドデッキに並べる。
拓真は、悠ちゃんに指示されて、野菜や肉を焼き始めた。
僕は涼さんにイスに座らされて、手にジュースが入ったコップを持たされる。
「玲くんはここに座って待ってて。いつもご飯を作ってくれてありがとね。今日はゆっくりしなよ?」
「え…そんな。僕も手伝います」
「いいのいいの。焼けたら悠希が持ってくるから、ちょっと待っててね」
「…はい。ありがとうございます」
僕も何か手伝わなきゃと思ったけど、動くと逆に皆んなに気を使わせてしまいそうだと、大人しく座って待つことにした。
悠ちゃんを見ると、「そこに野菜を置くな」だの「おいっ、そこの肉焦げかけてないか?ちゃんと見て焼け」だのと、拓真をこき使っている。拓真は、汗を流して必死に焼いていて、大変そうだな…と、少し不憫に思う。でも、ピリピリしていた二人の関係が、少しだけ和らいだ気がして、僕は笑って二人を見つめた。
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