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第106話 愛月徹灯
涼さんと拓真が、手を振りながらこちらに駆け寄ってきた。涼さんが笑いながら言う。
「俺も湖が見たくなってね…」
「ふふ、だったら一緒に来れば良かったですね」
「いや、邪魔をしたら悠希に怒られるから」
「さすが、よくわかってるな、涼。ところで、そいつの課題は?」
「ああ、夜に続きをやることにしたんだ。もう少し進めておかないと、夏休み中に終わりそうにないからね」
「すいません…」
僕たちから少し離れて、拓真が俯いて小さな声を出す。
僕は、拓真の傍に行って、肩をトントンと叩いた。
「拓真、今からは課題のことはちょっと忘れて、観光を楽しもう?」
「玲〜っ」
拓真が、僕の手を両手で握った途端、悠ちゃんが拓真の頭を掴んだ。
「おまえ、調子に乗るなよ」
「いっ、いたっ、痛いっす…っ。すんませんっ」
「悠ちゃんっ、乱暴はダメだよっ、もう…」
拓真が慌てて僕の手を離し、悠ちゃんに謝る。僕は、拓真の頭から悠ちゃんの手を離させようと、背伸びをして悠ちゃんの腕を掴んだ。
ワタワタと慌てる僕たちを見て、涼さんが、「皆んな仲良くなって、いいことだね」と笑った。
皆んなで少しだけ湖の周りを歩いて、別荘に戻る。
そして、急いで出かける準備をして、戸締りをして出た。
悠ちゃんが「どこに行くんだ?」と聞くと、涼さんが「牧場に行こうと思ってる」と言ったから、僕は楽しみで仕方がなくなった。
高原にある牧場に行くらしく、『きっと牧草の緑がどこまでも広がって、綺麗なんだろうなぁ。動物も可愛いだろうなぁ』と考えて、顔が緩んでしまう。そんな僕につられたのか、悠ちゃんも拓真も、涼さんまでもが、ニコニコとして僕を見ていた。
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