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第107話 愛月徹灯

別荘から少し歩いた所にあるカフェで、ランチを食べた。食べ終わると、涼さんがタクシーを呼んで、目的の牧場へと向かう。 別荘に来る時と同じように、前の座席に涼さんが、後ろの座席に悠ちゃん、僕、拓真と並んで座った。でも、別荘に来てから、幾分か悠ちゃんと拓真は打ち解けたのか、来る時のようなギスギスした雰囲気は無くなっていた。 牧場に着くと、真っ先にふれあい広場に行って、羊やウサギなどの小動物に触れる。動物を飼ったことのない僕は、恐る恐る手を伸ばして、そっと羊の背中を撫でた。 大人しく撫でさせてくれる羊が可愛くて、顔を蕩けさせていたら、横からシャッター音が聞こえてくる。ふと横を見ると、拓真がスマホを構えて僕を撮っていた。 「もうっ、拓真、恥ずかしいからやめてよ」 「なんで?すっげー可愛いっ。羊より玲の方が可愛い……あっ!」 ニヤける拓真の背後から、悠ちゃんが拓真のスマホを取り上げた。そして、拓真が撮った写真を見て、「これとこれを俺に送れ」と指図する。 悠ちゃんと拓真のやり取りを呆れて見ていたら、隣で涼さんが、たくさんの羊に囲まれて困っていた。 僕は、その様子を見て可笑しくなり、声を出して笑った。 「ふふっ、涼さん、羊にもモテるんですね」 「玲くん…笑ってないで助けてよ」 「はい、あ、でもちょっと待って。拓真っ」 スマホを覗き込んで悠ちゃんと話している拓真を呼ぶと、すぐに僕の傍に来た。 「ほら見て。涼さんすごいの。撮ってくれる?」 「わぉ、ホントだ。涼さん、モテモテっすね〜。さすがです。はい、そのまま〜」 拓真が何度かシャッターをきって、画像を確認する。「さすがイケメン」と言って見せてくれた画像は、どれも雑誌に載っていてもおかしくないくらい、カッコよかった。 充分に小動物と触れ合って、広場を出た。 手を洗い、悠ちゃん以外の三人で、ミルクの味が濃いソフトクリームを食べた。とても美味しかったから、悠ちゃんにも味わってほしくて、上目で悠ちゃんを見ながらソフトクリームを差し出す。すると、悠ちゃんは辺りをキョロキョロと見て、僕の腕を掴んでソフトクリームを食べるのかと思ったら、僕の唇をペロリと舐めた。 「な…っ!」 「ふっ、口の周りについてた。おまえの味が合わさって、美味いな…」 「…もう…」 僕は熱くなった顔を隠すように俯いて、溶けかけたソフトクリームをパクリと食べる。 悠ちゃんとは、もっとすごいことをしてるんだけど、こんな些細なキスでも、なぜか照れてしまう。 悠ちゃんは、笑いながら僕の頭を撫でて、「可愛い」と呟いた。

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