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第117話 疑心暗鬼
「わあっ!」
ドクンッ!と大きく心臓が跳ねて、ドキドキしながら振り向く。そこには、怖い顔をした悠ちゃんが立っていた。
「玲っ、どこに行くんだよっ⁉︎」
悠ちゃんに掴まれた肩が痛い。僕は痛みに顔を歪めて、小さく声を出した。
「…僕、起きたら悠ちゃんがどこにもいなかったから不安になって…、捜そうと思って…。悠ちゃん…、どこ行ってたの?」
「ああ、そうか…。悪りぃ…。買い物だよ。そろそろ食材が減ってきただろ?おまえが寝てる間に行って来ようと思ったんだよ。玲、例え俺の姿が見えなくても、部屋から出るなよ…。また、不安になる」
「ごめんなさい…。でも、僕だって不安になって…っ」
「わかったから、中に入ろう。おまえを、誰の目にも触れさせたくない」
悠ちゃんが、僕の肩から手を外して、荷物を片方の手に持ち、空いてる方の手で僕の手を強く握った。
悠ちゃんに手を引かれて家に入り、リビングのソファーに座らされる。
手際よく食材を片付けた悠ちゃんが、冷たいミルクティーのペットボトルを持って、僕の隣に座った。
「ほら。玲…ここ痛かったか?ごめんな。エレベーターを降りた時に、隣のエレベーターに乗り込むおまえが目に入って、どこに行くんだ、ってカッとなっちまった。おまえに声をかけずに買い物に行った俺も悪いけど、頼むから勝手に家を出るなよ…。また誰かに連れ去られるんじゃないかと、不安で気が狂いそうになる…」
「悠ちゃん…、わかった。ちゃんと待ってる。でも、悠ちゃんもどこかに行く時はちゃんと言って。それに出来れば僕も一緒に連れて行って」
悠ちゃんの言いたいことはわかるけど、僕だっていろいろ思うところはある。
俯いて、ペットボトルの水滴を指でなぞりながら、僕は小さく抗議した。
「玲、そんな顔をするな。俺は、おまえが愛しくて堪らないんだよ。ホントにごめん。玲、好きだよ…」
「ん…、悠ちゃん、僕も…」
僕の肩を抱き寄せる悠ちゃんの胸に、頰をつける。悠ちゃんの温もりと匂いに触れて、やっと気持ちが落ち着いた。
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