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第121話 疑心暗鬼
思えば、旅行から帰って来た頃から、僕と悠ちゃんは、少しずつおかしくなっていったんだ。
悠ちゃんに手首を縛られた日の夜に、拓真から何度も着信があったみたいだった。僕は悠ちゃんとのセックスに夢中で、全く気づいてなかった。
着信と共に入っていたメールを見ると、拓真の課題が終わったから、映画にでも行かないかという内容だった。
そういえば、旅行から帰って来た日から、拓真とは会っていない。僕は、十日も部屋に閉じこもり続けている。
ーー映画…行きたいなぁ。この前、CMで見たやつが面白そうだったし。でも、悠ちゃんにそんなこと言ったら、きっとまた縛られてしまう。縛られるのは、もう嫌だ。悠ちゃんを怒らせるのも、嫌だ。
僕は、深く息を吐いて、ベッドに寝転んだまま拓真に、『風邪をひいたから行けない。ごめんね』とメールを送った。
すぐに、『そうかぁ、早く治せよ。欲しい物があったら言ってくれ。すぐに持って行くから』という、拓真らしい優しい内容の返信が来た。
なんだか胸がポワリと温かくなって、思わずふふっ、と笑ってしまう。
ーー欲しい物…。おばさんのケーキ、また食べたいなぁ…。
おばさんの優しい笑みと、甘い匂いのケーキを思い出して、顔が綻ぶ。
拓真に、『おばさんのケーキが欲しい』と送ろうと思ったけど、最近、僕は食欲があまりない。ジッと家にこもって動かないから、お腹が空かないんだ。
ーーまた、二学期になったら拓真の家に遊びに行こう。
そう決めて、僕はスマホを机の上に置き、ベッドから降りて部屋を出た。
リビングのドアを開けると、悠ちゃんが昼ご飯を作っていた。僕に振り向いて、テーブルの椅子に座るように言う。
「冷麺でいいだろ?すぐ出来るから、座っててくれ」
「うん」
僕は頷いて、テーブルに向かおうとした。その時、ドアの近くに取り付けられたインターフォンが鳴った。
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