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第122話 疑心暗鬼
インターフォンのモニターを見ると、涼さんの顔が写っている。
「あ、涼さん」
僕が名前を呟いて、通話ボタンを押そうとした瞬間、キッチンから鋭い声が飛んできた。
「玲っ!触るなっ‼︎」
ビクンッと身体が大きく震え、僕の動きが止まる。突然の大きな声に驚いて、胸が激しく波打った。
なんで?と悠ちゃんを見ると、急いで僕の傍に来て、僕を抱きしめて画面を無言で見る。
そのうち諦めたらしい涼さんが、画面から離れて行った。
「ふぅ…」と息を吐く悠ちゃんを見上げて、訝しげに聞く。
「なんで出ないの?涼さんだったよ?」
「わかってる…けど…俺は、玲との二人だけの時間を誰にも邪魔されたくない。それは、涼でもダメだ。拓真もだぞ。おまえのスマホに拓真から着信が入りまくってたけど、どうした?」
悠ちゃんの探るような視線に、ようやく静まっていた心臓が、また騒つき始める。僕は、唇を震わせて、悠ちゃんの胸に頰をつけたまま言った。
「拓真からメール入ってたよ…。映画に行かないか、って。でも、ちゃんと断ったよ。…僕も、悠ちゃんと二人でいたいから…」
「そう…。玲、俺は今、すごく幸せなんだ。おまえを誰かに取られる心配がない。俺だけの玲だ。…ほら、腹減ったし、飯食おうか」
「うん…」
身体を離して見上げた悠ちゃんの顔は、幸せだと言う割に、目が充血してクマが出来ている。
なぜか胸の中がモヤモヤとして、その場に立ち尽くしていると、悠ちゃんに手を引かれて席に着いた。
冷麺は美味しかったけど、食欲がないのと、胸がつかえてるのとで、半分しか食べれなかった。
悠ちゃんが心配して、僕の額に手を当てる。
「しんどいのか?熱があるわけじゃないみたいだな…」
「最近、身体を動かしてないからお腹が減らないんだよ。でも、僕は元気だから大丈夫だよ」
「そうか…?ちょっとでもおかしいと思ったら、すぐに言えよ?」
額に当てていた手をスルリと頰に滑らせて、悠ちゃんが不安な顔をする。
正直なところ、頭がボーッとして身体も怠い。でもそれは、昨夜の激しいセックスのせいだろうと思い込もうとした。
僕は、悠ちゃんの腕に触れて、悠ちゃんの手に頰を擦り寄せた。悠ちゃんの親指が僕の唇をなぞり、そっとキスをする。
「ねぇ悠ちゃん…。僕、まだ身体が怠いから、寝ててもいい…?」
「ん、いいよ。ごめんな…昨夜、無茶させたよな。ほら、部屋に連れて行ってやるよ」
「部屋じゃなくて…、ここで寝ててもいい?悠ちゃんの傍にいたい…」
「ふっ、わかった。片付けが終わったらすぐ来るから、待ってろよ」
「うん」
悠ちゃんが、僕を抱えてソファーに寝かせる。悠ちゃんが、食器を洗うカチャカチャという音を聞いてるうちに、だんだんと眠くなってきて、悠ちゃんが戻って来る前に眠ってしまった。
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