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第131話 愛別離苦
僕は、深い眠りと浅い眠りを繰り返していた。
時折り、微かに父さんと悠ちゃんの声が聞こえる。
一度、薄く目を開けた時に、悠ちゃんが悲しそうな顔をして、僕をジッと見つめていた。
ーー悠ちゃん…どうしてそんな顔をしてるの?僕はどこにも行かないよ。僕が起きたら、約束通り、パンダを見に行こうね…。
僕は、悠ちゃんに笑って欲しくて、ふわりと笑ったように思う。
次の浅い眠りの時に、父さんと悠ちゃんの話し声が聞こえてきた。
「学校」とか「夏休み明け」とか言ってたから、二学期までには、元気になるということかなぁ…と思っていた。
ずいぶんと長い間、僕は眠っていた気がする。その間、僕を呼ぶ悠ちゃんの声が、ずっと聞こえていた。
そして、何度目かの悠ちゃんの声で、僕は目を覚ました。
「玲…っ。俺がわかるか?気分は?」
「悠…ちゃん…、わかるよ…。大丈夫…」
「玲…」
悠ちゃんが、優しく僕を抱きしめる。僕も悠ちゃんに触れたいと、まだ震える腕を伸ばして、しがみついた。
ゆっくりと身体を起こした悠ちゃんが、僕にそっとキスをする。何度か啄んで離れると、僕の頰を撫でて言った。
「玲…、俺、自分が玲を誰にも見せたくないからって、我が儘言って、玲の病気をひどくさせた…。玲が大事なのに苦しめた…。ごめんな」
「大丈夫…だよ…。僕が、弱過ぎるから…。心配かけて、ごめんね…」
「違う、俺が悪いんだ。おまえ…肺炎おこしてた。父さんが来て、病院に連れて行かなかったら、最悪、死んでたかもしれない…っ。俺は、おまえを殺しかけたんだっ…」
「悠ちゃん…、自分を、責めないで…。僕は、そんなに簡単には…死なないよ…」
「ごめん、ごめんな…。おまえは、二日間、意識が朦朧としてたんだ。でも、経過が良くて、目が覚めたら一週間で退院出来るって言ってた。たぶん、退院の時は、父さんが迎えに来るからさ…気をつけて帰れよ」
「え…?悠ちゃん…いないの?」
「あ、ああ…、ちょっと涼と出かける用事があるんだ。悪いな。あ、そうだ。目が覚めたら、拓真が教えろってうるさかったんだ。玲、後でメールしといてやれ。すっげー心配してたぞ」
悠ちゃんを見つめる僕の視線から逃れるように、悠ちゃんが目を逸らす。その目の端が、キラリと光ったように見えた。
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